ARENA2036のイメージ(写真提供:ARENA2036)

 元スタンフォード大学客員研究員であり、ARENA2036のパートナーであるフラウンホーファー労働経済・組織研究所(IAO)およびシュトットガルト大学大学院で博士課程に在籍のEva Grochowski氏は、この点について次のように述べる。

「研究開発のコラボレーションや多様な専門家によるレビューは参加企業にとって重要なメリットです。しかし、コラボレーションの鍵を握るのがコミュニケーションであることを忘れてはいけません。同じキャンパスに所在する企業同士では様々な情報交換やコミュニケーションが交わされます。セキュリティの問題も深く関係することですが、例えば重要なデータは今でもCD-ROMで共有されることが多くあります」

 こうした緊密なコミュニケーションは、今でも大きな役割を果たしているのだという。

「違い」を受け入れる長期のコミットが
イノベーションのカギ

 シリコンバレーとリサーチ・キャンパスは全く異なる2つの取り組みだが、学ぶべき共通項はないだろうか。SAPが変革を可能とした背景には、連邦国家であるドイツの特徴も関係しているようだ。小松原氏によれば、ドイツは過去、州が異なればまるで別の国のような存在であったため、それぞれの異文化間でコミュニケーションをとるために、ものごとを共通言語化することに慣れているのだという。

「ERP、デザイン・シンキング、また近年ドイツが世界に提唱しているIndustry 4.0、これらは一見相互に関係がないように見えます。しかしSAPから見れば、仕事のやり方やイノベーションを「パッケージ化」「フレームワーク作り(共通言語化)」という意味で、同じ流れです。グローバル化の中で、日本企業も単一民族間での“あうん”では済まない世界になっています。SAPを訪れる日本企業からはこの共通言語化の手法もまた、興味を持たれています」と、同氏は続ける。

 デザイン・シンキングの導入を開始した2004年から、顧客へのアプローチへと全面適用する2012年まで、SAPは試行錯誤を繰り返しながら8年の歳月をかけている。その道のりは当然ながら平たんではなかった。成功したポイントのひとつは、「違い」を受け入れる努力を続けたことであろう。それはデザイン・シンキングの基本的な考え方でもある。

 創業者であるHasso Plattner氏による強いコミットもさることながら、買収によって米国人従業員比率を増やしたり、デザイン・シンキングの専門家を35名も自社に雇い入れたり、段階的にさまざまな取り組みを継続した結果が、現在のSAPである。

 一方のリサーチ・キャンパスについても、中小企業、大企業、大学、そして政府といった異なる存在をひとつの拠点に集め、それぞれの違いを受け入れ、活かしつつイノベーションを推進しようという意味で、同様のオープン・イノベーションの流れを汲んだ取り組みであるといえよう。

 そして両者とも、その実行には自らが見いだしたコンセプトに対する長期的なコミットがある。イノベーションを達成する道はひとつではないし、もちろん正解もない。しかし、違いを受け入れつつ、そのために粘り強く、時には貪欲に取り組む姿勢には、学ぶべきところがあるのではないだろうか。

【参考資料】
1)Research Campus: http://www.arena2036.de/de/arena2036/inhalte-und-ziele
2)Eva Grochowskiac, et al., “Web-based collaboration system for interdisciplinary and interorganizational development teams: case study”, ICPR23, 2015