Zさんは40代の頃、ある商社で課長をしていました。課長になりたての頃は、他の課長同様に、部下とのコミュニケーションに課題があるとずっと感じていました。そんな悩みは、ある出来事をきっかけにして一気に解消します。

 Zさんの部下で、何度言ってもやらない人がいました。「なんでコイツは何度言ってもできないのだろう」「先週も先月と同じことを言ったばかりなのに」「何度言ったらわかるのだろう」といつもイライラしていたといいます。

 エビングハウスの忘却曲線まで勉強する始末で、そのとき行き着いた改善策は、短いインターバルで「あれどうなってる?」と声を掛け続けて、絶対にあきらめないぞという姿勢を見せることでした。どこかで区切って進捗を聞くのではなく、頻繁に聞き続けることが、部下の意識を徐々に変えたといいます。

 それをきっかけにして、部下への対応全般を、とにかく短いインターバルで「声掛け」することにしました。相手が外出していたり、異なるオフィスにいる場合などは、電話やショートメールを活用するだけでなく、付箋紙などに要件を書いて、二つ折りしたメモを残し、とにかくコミュニケーションの接点を密にしました。

 その中で、Zさんは週に1回30分のコミュニケーションを取るよりも、何か気づいたときどきに、その場で3分間のコミュニケーションを10回取るほうが、部下の成長や業績の向上にははるかに効果があると思い知らされたのです。

 ちょっとしたアドバイスや仕事に関するフィードバックもまさに「鉄は熱いうちに打て」で、そのとき、その場で行わないとどんどん効果がなくなり、翌日になるとほとんど効かなくなるのです。まさに「人は1日後には74%を忘却する」というエビングハウスの忘却曲線そのままではありませんか。

 それ以来、Zさんは部下とのコミュニケーションにまとまった時間を取ることにこだわらず、部下の言動を見たそのとき、文書などを読んだその場で、とにかく思いを溜めずに小まめに声掛けをするようにしました。

 たまたま目に入った完成前の企画書を見て、書き上がるまで待ってからコメントするのではなく、「このデザインは良いね、さすがだね」と感想を伝えたり、普段は温厚でおとなしい部下が、取引銀行のチョンボに対して厳しく電話で対応していたときに「今のはよかった、今の突っ込みはよかった」と横からその対処を褒めたりしました。

 それにより、少しずつ部下のZさんを見る目が変わってきたといいます。コミュニケーションのやり取りも頻繁になって、意思疎通のレベルが格段に向上したそうです。

 部下とのやり取りには、小まめに「褒める」ことも大切です。人は褒められると嬉しく感じるだけでなく、「自分のことをちゃんと見てくれている」「自分の良さを理解しようとしてくれている」と感じます。そのことが、相手の言葉を素直に聞こうという信頼関係の構築につながるのです。

 逆に、ダメ出しやあら探しばかりだと、自分を正しく見てくれていないと感じます。すると、何を言っても素直に聞こうとしないメンタリティになってしまうのです。

 人を動かすためには、伝え方や物の言い方を工夫する以前に、自分の言うことをきちんと聞いてもらえる関係をつくる必要があります。そのためには的確なアドバイスが必要なのではなく、「あなたを見ていますよ」というメッセージを頻繁に送り続けることが大切なのです。

【ポイント】短いインターバルで「声掛け」を行い、信頼関係を構築しておく

第17回に続く(7/1公開予定です)