脳外科医・研究脳外科医と
算数・数学の非常識な関係
脳室の中に空気を注射する空気注射を考えついたのは、ウォールター・E・ダンディ教授(ジョンズ・ホプキンス大学医学部脳外科医)で、1918年のことです。
脳のX線写真のおかげで、脳外科が多大な恩恵を受け、発展していきました。
X線写真の前後のレベルを変えて撮ると、腫瘍の立体構造もわかります。
私自身の経験では、脳外科医は手術で削除する脳腫瘍の構造を測定しますが、外科医に必要なのは、実は数学よりも算数のほうだと思います。
しかし、特定の手術法が脳腫瘍除去に有効であることを研究発表するとなると、脳腫瘍で脳の働きがどうなるか、手術しなければどうなるかを調べることになります。
また、客観性を持たせるため、推理統計学を使うことになります。
これにより、得られた結果がどれくらい正しい確率かが問題になり、数学の知識が必要となります。
(Kisou Kubota)京都大学名誉教授、医学博士。世界で最も権威がある脳の学会「米国神経科学会」で行った研究発表は、日本人最多の100点以上にのぼり、現代日本において「脳、特に前頭前野の構造・機能」研究の権威。2011年、瑞宝中綬章受章。1932年、大阪生まれ。著書に、『1歳からみるみる頭がよくなる51の方法』『赤ちゃん教育――頭のいい子は歩くまでに決まる』『あなたの脳が9割変わる! 超「朝活」法』(以上、ダイヤモンド社)などベスト&ロングセラー多数。
最初に調べるための仮説(AをすればBになる)をつくります。
定性的でなく定量的に言わなくてはならないので、変数を含んだ方程式(連立方程式や偏微分方程式のこともある)をつくらなければなりません。
ですから、本格的な研究となると、算数だけでは不十分で、数学の知識が必要になります。
脳外科医は算数の知識で足りるかもしれませんが、本格的な研究をする研究脳外科医は算数だけでは不十分で、数学も必要なのです。
外科医ですぐれた研究脳外科医としては、人の運動野の地図をつくったワイルダー・ペンフイールドがいます。
ロックフェラー財団から資金を得て、モントリオール神経学研究所を創設し、研究を続けました。
脳外科医として生きるには、算数が必要で、算数の常識的理解で十分ですが、研究脳外科医には算数も数学も必要という、普通の人にはよく理解できない非常識な関係があります。