豪華客船「飛鳥2」の後継船の建造をめぐり、発注側の日本郵船と受注側の三菱重工業が神経戦を展開している。浅からぬ関係にある三菱グループ内の交渉が、なぜここまでもつれているのか。その真相に迫った。(「週刊ダイヤモンド」編集部 千本木啓文)

「できれば(客船『飛鳥2』の後継船〈以下、『飛鳥3』〉は)日本の造船所で造りたいが、唯一、高級な客船を造れる三菱重工業は、非常にいろいろとお考えのようで、まだ結論が出ていない」

 日本郵船の内藤忠顕社長は6月20日の株主総会で、子会社が運航する「飛鳥3」の発注先を決められないことへの不快感をあらわにした。

 かねて、内藤社長は「飛鳥3」の建造は三菱重工でとの意向を持っていたとされる。冒頭の発言は、三菱重工へのプレッシャーを強めるダメ押しともいえるものだった。

 日本郵船にとって三菱重工は、所有株式数で第3位の大株主である。その浅からぬ関係にある三菱重工に対して、日本郵船トップが公然と批判めいた発言をするのは異例のことだ。

 その背景には、「飛鳥2」の更新時期が迫っていることへの焦りがある。同船は三菱重工によって建造されてから26年。老朽化が進んでいるのだ。

三菱グループ内で豪華客船受発注をめぐり「神経戦」「飛鳥Ⅲ」の建造をめぐり、水面下で鞘当てする日本郵船の内藤忠顕社長(右)と三菱重工業の宮永俊一社長 Photo:REUTERS/アフロ、Fusako Asashima、JIJI

 日本郵船は「飛鳥3」の発注先を今年度中にも選定する方針。三菱重工と発注契約の合意ができなければ、中古船を買ってそれを改装することまで視野に入れている。

 内藤社長があくまで三菱重工にこだわるのは、「飛鳥2」の乗客の中心がシニア世代の日本人であり、三菱重工が建造した“国産”の客船であることがウリになるからだ。かつて三菱重工が手掛けた客船「ダイヤモンド・プリンセス」のキャッチコピーも“日本生まれ”である。日本発着の客船にとって、三菱重工のブランドは重要なのだ。

 だが、こうした期待をよそに、三菱重工は「飛鳥3」の受注に積極姿勢を見せない。

 最大の要因は、米カーニバル傘下の独アイーダ・クルーズ向けの客船の工事で大失態を犯したからだ。設計のやり直しで建造が遅れ、部品の調達も混乱。遅れを取り戻すために追加費用が膨らんだ。

 結果として、2隻で1000億円ともいわれる受注額を大幅に上回る累計2375億円の特別損失を計上した。「“みそぎ”を済まさなければ、次の客船を受注できない状況になっている」(三菱重工関係者)というのである。