2009年3月の社長就任時、「企業風土を変えること」を最大のミッションに掲げていた東急ストア(東京都)の木下雄治社長。就任から1年半が経過し、その間、次々と新たな施策を打ち出している。これまでの“待命受命”という消極的な企業体質から一新、自発的に行動する企業体質へと、木下改革は着実に現場に浸透している。聞き手/千田直哉(チェーンストアエイジ)
“褒める”ことがマネジメントの根幹にある
きのした・ゆうじ 1951年生まれ。75年、青山学院大学経済学部卒業。同年、東京急行電鉄入社。2003年、同社取締役。08年、東急ストア取締役副社長。09年、代表取締役就任、現在に至る。
──09年3月に東急ストアの社長に就任されてから1年半が経ちました。当時は最大のミッションとして「“待命受命”(=指示待ち体質)ともいうべき企業風土を変えること」を掲げていました。具体的にどのような施策を打ち、どのように企業風土が変わってきたと感じていますか?
木下 自ら考え実行する組織をつくるために、従業員がアイデアを出して実行したことに対して、私たち経営陣が褒めて評価するという制度をつくりました。
具体的には、お客さまからお褒めをいただいた従業員を表彰する「ベストフレンドリー賞」や接客などがよい店舗を表彰する「スマイルチーム賞」、カットフルーツや刺身の盛り合わせなど商品化技術の高い人を表彰する「技能賞」などを新設して、それを私や営業本部長など経営陣がお店に行って表彰するということをしています。トップ自らが従業員に歩み寄り、褒めることに取り組んでいます。
──基本的には、“褒める”ということがマネジメントの根幹にあるのですね。
木下 そうです。人間はだれしもが認められたいものです。“褒める”という行為は、相手の認知欲求を満たしていくことです。「会社にとって、あなたは必要な存在なのです」ということを従業員に伝えることが、コミュニケーションの第一歩です。残念ながら当社は、お客さまとコミュニケーションをする従業員が、会社とコミュニケーションできていない状態が長く続いていました。だから、まずはしっかりと会社と従業員との間でコミュニケーションを図ることを最優先に実行しています。その結果、従業員のモチベーションが高まり、仕事に対する自覚や競争心が芽生え始めていると感じています。
──他にはどのような打ち手を施していますか?
木下 現在、社長直轄プロジェクトとして「人事制度改革(人材育成)」「時間外労働時間削減」「夜間売上拡大」「女性プロジェクト 売場改善チーム」「女性プロジェクト 環境改善チーム」「FSPによるMD見直し」「FSPによる販促見直し」という7つが稼働。約50人が活躍しています。プロジェクトの構成メンバーは半分が公募で半分は他薦によって選ばれます。その中にはパートさんもメンバーに入っています。選ばれたパートさんも、自分が選ばれるとは思っていなかったようで、最初はびっくりしていましたが、本当に一生懸命に取り組んでもらっています。
こうした制度も、存在をきちんと認め、認知欲求を満たしていくことの一環なのです。「あなたがたの提案を、きちんと受け入れる仕組みがあります」というメッセージになるわけです。
さらに、今年4月からは、店長以上の職責の人を対象に、マネジメントスキルを高めるねらいで、社長塾を始めました。