全4回のシリーズでお届けしているヒクソン・グレイシーへのインタビュー。第二回は、伝説の格闘家が現在の格闘技界への想いと柔術の意味を語り尽くします。(聞き手/ダイヤモンド社書籍編集局)

――第1回では、「日本人」について話をうかがいましたが、現在の格闘技界については、どうお考えですか?

ヒクソン・グレイシー(Rickson Gracie) 1959年11月21日生まれ。ブラジル出身。柔術家。総合格闘技の歴史にその名を刻む「グレイシー柔術」最強の使い手として知られる。初来日時に付けられた「400戦無敗」というキャッチフレーズはあまりにも有名。現役時代は並み居る強豪を次々と撃破し、総合格闘トーナメント「バーリ・トゥード・ジャパン・オープン」では2年連続優勝という偉業を達成(1994年、1995年)。その後、高田延彦、船木誠勝といったプロレス界のスーパースターにも完勝し、その強さは日本の格闘ファンのみならず、様々なメディアを通して広く一般にも知られることとなった。2008年2月に一般社団法人 全日本柔術連盟(JJFJ)を設立し、初代会長に就任。現在は後進の育成と共に、グレイシー柔術の普及に尽力している。 Photo by Takahiro Kohara

 総合格闘技(MMA)は、さまざまな格闘技の対決の場として誕生した。その中で私の兄がUFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)を立ち上げたのは、グレイシー柔術がすべての格闘技の中で最も優れていると宣言するためだった。

 このような動きが進むうちに、すべてのファイターが総合的なトレーニングを始めるようになった。打撃に優れた選手は組み技のテクニックを上達させているし、組み技が得意な選手は打撃の腕を磨いている。

 格闘技界全体で同じ動きが進み、今では誰もが同じような闘い方をしている。スタイルの違う格闘技の要素や技術がこうして交じり合った結果、何よりも重要な要素は、やはりファイター自身になったのだ。

――最終的には個人の能力による、と。

 そうだ。現在の総合格闘技は、新しい究極のスポーツだ。動き、ルール、規則、テクニックなどによる制限は昔ほど厳しくなく、個人がどこまで強くなれるかの勝負だ。

 どのくらい強靭な体か、どれほど回復力があるか、どんなに動きが速いか、いかに無駄のない動きができるか。それで決まる。

 あらゆる格闘技の技をすべて身につけることなど、誰にもできないからだ。