南シナ海で中国がやっていること

南シナ海の現状を改めて整理しておこう。北方のパラセル諸島は、40年以上前に、中国がベトナムを攻撃して奪い、現在は、中国海軍の拠点となっている。

東南に下ると、スカボロー礁がある。台湾に近く、フィリピンにおける米軍の拠点であるクラーク、スービック両基地からも遠くないスカボロー礁は、3年前から中国が実効支配を続けている。

同海域では、埋め立てにつながると見られる船の集結が確認されており、オバマ政権の間に、中国は埋め立て工事と軍事拠点の構築を断行しかねない。

さらに南に下ったスプラトリー諸島では、フィリピンが領有を主張する岩礁が7つも奪われ、埋め立て工事が完了した。その面積は、13平方キロにも及ぶ。

人工島には、3000メートル級の滑走路が建設済みだ。北部海域のパラセル諸島には戦闘機、爆撃機、地対空ミサイル、地対艦ミサイルなどの配備が確認されており、スプラトリー諸島にも同様の武器、装備が配備されると考えなければならない。

今回、仲裁裁判所の裁定が下されたとはいえ、これらの島や施設を元の岩礁に戻して、南シナ海の原状復帰を図ることはできるのか。アメリカ国防総省がイージス艦「ラッセン」や空母「ロナルド・レーガン」を南シナ海に展開させても不可能であろう。中国は、拠点を築いてしまったのである。

すべての発端は
アメリカの「自国第一主義」

なぜ中国はここまで大胆に行動を起こし得たのか。原因は、オバマ大統領にある。2013(平成25)年1月から始まった第2期オバマ政権は、対外政策に関する限り、後退に次ぐ後退を重ねた。オバマ政権2期目こそ、後世に、アメリカの後退の始まりとして記憶されるであろう。それはパックス・アメリカーナ(アメリカによる平和維持)の時代の終焉につながる危機でもある。

アメリカの後退を象徴する驚きの言葉が世界を駆け巡ったのは、2013年9月10日のことだった。オバマ大統領が、アメリカは中東のシリアに軍事介入しない、その理由はアメリカが「世界の警察」ではないからだと語ったのだ。

間髪を入れずにロシアのプーチン大統領がアメリカの不介入、その存在の空白を埋めるかのように動いた。当時、シリアのアサド大統領は、化学兵器を使用して、10万人を超える自国民を殺害していた。

アメリカはアサド政権を打倒すべきだったが、オバマ大統領の不介入政策でアサド政権の跋扈を許し、前述の演説をしたのだ。動こうとしないアメリカを尻目にロシアは次々と先手を打った。化学兵器の国際管理を提案し、自国民を殺害し続けてきたアサド大統領と共に、プーチン大統領が正義の味方であるかのような位置を得たのである。

アメリカを主軸とした冷戦後の国際秩序に異変が生じた瞬間である。

アサド大統領を支援するプーチン大統領は、テロリスト撲滅と称して、反アサド勢力を攻撃し始めた。それが中東の混乱を深め、大量の難民を生み、ヨーロッパを追い詰め、イギリスのEU離脱の原因となった。

ひたすら軍事力の行使を忌避するオバマ大統領の不決断が国際政治の力学に空白を生み、中国とロシアの膨張を可能にした。イスラム国(IS)をはじめとするテロリスト勢力の膨張も同様である。