中間層が崩壊する恐れも?
人工知能が日本に及ぼす影響

人工知能に仕事を奪われる人々を、ベーシックインカムで救おうという議論の現実味人工知能(AI)の発達で仕事を奪われる中間層が続出するという。ベーシックインカム(BI)によってそうした人々の生活を保証しようという議論もあるが、果たしてそれは現実的か

 人工知能(AI)の発達は、わが国経済・社会にどのような影響を及ぼすのか。

 アルファ碁に象徴されるディープラーニングの進化の状況を見る限り、AIが経済社会のあらゆる分野に活用されれば、飛躍的な生産性の向上をもたらす可能性は高い。その一方で、これをうまく使いこなす人とこれに伴い職を失う人との間に、かつてデジタルディバイドと呼ばれていた大きな格差が、大々的に発生するだろう。

 すでに野村総研から、「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」というセンセーショナルな予測も公表されている。

 一方政府は、名目GDP600兆円の実現に向けた成長戦略(日本再興戦略2016)の中で、第4次産業革命を奨励しているが、その中に以下のような記述がある。

「今後の生産性革命を主導する最大の鍵は、……第4次産業革命である。……既存の枠組みを果敢に転換して、世界に先駆けて社会課題を解決するビジネスを生み出すのか。それとも、これまでの延長線上で、海外のプラットフォームの下請けとなるのか。……人口減少問題に打ち勝つチャンスである一方で、 中間層が崩壊するピンチにもなり得るものである」(下線筆者)

 第4次産業革命に的確に対応できなければ、健全な思想の中核となる中間層の崩壊という大きな問題が生じるとして、経産省作成の図表の中で、「放置すれば700万人を超える失業者が生じ、うまく対応できても161万人の失業者が出る」と試算している。

 しかし問題は、AIへの対応が順調に進んだ場合にこそ生じるのではないか。第4次産業革命が生じた場合、そのことが失業者の急増や所得格差の拡大など極端な負の影響をもたらす可能性がある。したがって、それへの対応も併せて検討しておくことが必要だ。

 ITやAIの発達は、グローバル経済の下で、市場メカニズムにより、我々の制御できないスピードで、いわば暴力的に進んでいく。一方所得格差への対応は、生身の人間を相手にした政治の世界だけに、対応が後手後手になることは目に見えている。

 さてその対策として、欧州の経済学者を中心に、ベーシックインカム(最低保障制度、以下BI)が提唱されている。BIというのは、国家が無条件に(勤労や所得・資産の多寡にかかわらず)、最低限の生活を保障するための給付を行う制度である。もともと、格差や貧困問題への対応として提唱されてきたのだが、AIの発達という新たな要因が加わり、支持層の幅を広げている。