筆者が社会人になったころ、客の前で「政治と宗教とプロ野球の話題は持ち出すな」と教えられた。相手が何を信じているか(応援しているか)はわかりようもなく、ヘタに非難しようものなら、相手から恨まれるからだ。

 政治や宗教はいまもハレモノだが、プロ野球のほうはどうなのだろう。地上波放送でプロ野球中継が行なわれなくなって久しくなり、関心を持つ機会が激減してしまった。

 無関心層が増えた中で、横浜ベイスターズの身売り話に驚いた人は多いだろう。第一印象としては「TBSは、そんなに業績が悪いのか?」といったところか。「身売り」という表現が悪いのかもしれない。親会社のTBSとしては、いままでで十分に投資効果が得られた(宣伝効果がなくなった?)ので、もう売却してもいい頃合いだ、という見方もあるはずだ。

 そして、結局、身売り話の破談である。一体、何があったのだろうかと気になるところだが、いずれにしろ報道される記事(本拠地移転問題など)だけでは、ヤジ馬の推測の域を出ない。

 ということで今回は、TBSを主題にすえた在京キー局に対する経営分析である。外部に公表されている財務諸表などの数値だけで、TBSの台所事情から身売り話の裏側までを当て推量してみよう、という試みだ。

「そのようなことができるのか?」 と思われるかもしれない。できるのだから、経営分析や管理会計の世界は面白い。

 世の中に、企業分析のプロと呼ばれるアナリストがどれだけいるのかは知らない。どれだけ束になって挑んでこようとも、誰一人として気づかぬ「大どんでん返しの経営分析」を、本コラムの終盤でお見せしよう。

 なお、以下では証券コード順に、フジ・メディア・ホールディングス→フジ、TBSホールディングス→TBS、日本テレビ放送網→日テレ、テレビ朝日→テレ朝、の略称名を用いることをお断わりしておく。テレビ東京は10年9月末で上場廃止になったので、本コラムでは扱わない。

フジ、日テレ、テレ朝が回復する一方、
凋落の一途をたどるTBS?

 最初に在京キー局4社について、伝統的ROE(Return On Equity)に基づいた推移を〔図表 1〕に示す。「伝統的」という冠を付けるのは、後ほど登場する、筆者オリジナルのROEと区別するためである。

 〔図表 1〕から受ける全体の印象としては、総じて右肩下がりの傾向があることだ。民放は広告収入に依存するので、スポンサー企業の業績を間接的ながら垣間見ることができる。

 〔図表 1〕から、4社の推移をざっと眺めてみよう。フジは08/6(08年6月期)以降、2%~3%の間で底堅い推移を示しており、日テレは08/12(08年12月期)を底にして急回復を遂げている。テレ朝は苦境を脱しつつあるといったところか。TBSは「秋の日の、つるべ落とし」という表現が当てはまりそうだ。