クックパッドコーポレートブランディング部本部長で、『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』著者の小竹貴子さんは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』について「40代の今出会えてよかった本」と熱くその魅力を語っています。
今回、この二人の対談が実現。ともに起業、スタートアップにかかわった経験から「バリバリ働いてきた人が限界を超えないためにどう休めばいいか」について語ってもらいました。(取材・構成/杉本透子)

発達障害の僕が発見した「適職」と「向いていない仕事」の見極め方

20代は、仕事が2年以上続かなかった

借金玉 小竹さんはもともと多動傾向があるということでしたが、うっかりミスや、携帯電話を失くすなんてこともありますか?

小竹貴子(以下、小竹) 携帯は最近思いつく限りでも2回失くしています。今は失くしちゃいけないものをまとめたショルダーバッグを社内でも持ち歩いています(笑)。うっかりミスもありますね。自分に興味がないことに関しては完全に忘れてしまいます。

借金玉 会社の立ち上げをされる方に非常に多い特性ですね。ベンチャー企業の経営者が3人集まると全員カバンを忘れてきたりする(笑)。逆にそのエネルギッシュさが創業期の戦場では必要だし、強みでもあるんですけど。僕も飲食の立ち上げを経験しているのですが、スタートアップの創業期は人の評価が基本的に加点法じゃないですか。うっかりミスがあっても、もっと大きな成果を出せば多少のことは許される。ADHDの特性がある人には向いているんでしょうね。

小竹『発達障害サバイバルガイド』には「“向いていない仕事”を徹底的に避けよう」とありましたね。私も20代は2年以上仕事が続いたことがなかったです。それが30歳からクックパッドに入って、料理とインターネット、自分がやりたいことだけに猛進できました。

借金玉 うまくいく方の典型例という感じがしますね。向いている仕事にシフトする決断ができなくて、仕事選びを失敗する方は非常に多いですから。僕が思う障害と能力の差って、「周りとの関係がうまくいっているか」「人生がうまくいっているか」なんです。今うまくいっているのであればそれは障害ではなく能力なのだと思います。

発達障害の僕が発見した「適職」と「向いていない仕事」の見極め方小竹貴子(こたけ・たかこ)
クックパッド株式会社Evangelist、コーポレートブランディング部本部長
1972年石川県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオでWEBディレクターを経験後、2004年有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。広告主とユーザーのwin-winを叶えた全く新しいレシピコンテストを生み出す。2006年編集部門長就任、2008年執行役就任。2010年、日経ウーマンオブザイヤー2011受賞。2012年、クックパッド株式会社を退社、独立。2016年4月クックパッドに復職、現在に至る。また個人活動として料理教室なども開催している。シンプルでおいしく、しかも手順がとても簡単なレシピが大人気で、生徒から「料理のハードルが低くなった」「毎日料理が楽しいと感じられるようになるなんて」の声多数。日経BPから上梓した『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』が現在7刷のロングヒットに。

まずは自分が絶対にできないことを避ける

小竹 運も良かったと思います。20代の失敗があったおかげでベンチャー企業に飛び込めたし、いい出会いがあったので。20代で借金玉さんの本に出合っていたら、もっと早くから働き方が変えられていたかもしれない。

借金玉 世間一般で言うホワイト企業だからといって、自分には破滅的に合わないというパターンはよくあるので、要注意です。本にも書いたのですが、僕は世の中のあらゆる職種は、ざっくり

・成果(数字)だけが問われる業務
・成果物が評価される業務
・事務職など作業が評価される業務
・マネジメント業務

の4つに大別できると思っています。まずは、この中で自分が絶対的にできないことだけ避ければいい。

 僕は不動産営業もするのですが、営業は自分の動いたことが成果に直結するのがモチベーションの源泉になります。逆に事務作業とか、たっぷり準備をして当たり前に80点を取る仕事というのが一番きつい。それは銀行勤めで失敗した経験から学びました。

小竹 この分類はとてもわかりやいですね。

 クックパッドで働く行動指針のなかに“Bring your passion”というメッセージがあるのですが、自分自身の情熱を活かす道を探ることを大事にしています。そしてその情熱を仲間と共有し認めあいながら、事業をすすめていこうという文化があります。会社のメンバーが、それぞれの得意な分野で自分を生かせるととてもいいなと思います。

発達障害の僕が発見した「適職」と「向いていない仕事」の見極め方借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』