クックパッドコーポレートブランディング部本部長で、『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』著者の小竹貴子さんは、借金玉さんの著書『発達障害サバイバルガイド』について「40代の今出会えてよかった本」と熱くその魅力を語っています。
今回、この二人の対談が実現。ともに起業、スタートアップにかかわった経験から「バリバリ働いてきた人が限界を超えないためにどう休めばいいか」について語ってもらいました。(取材・構成/杉本透子)
ずっと「頑張るのが美徳」という価値観で生きてきた
小竹貴子(以下、小竹) 私は今までの人生、長らく「とにかく頑張る」をモットーに生きてきたんです。
今思うと、それは子どもの頃から普通のことが普通にできなかったのが大きかったですね。子ども時代、親はいつも「できない私」のことを案じていた。今思うと、診断名は特につかなかったのですが「多動」の傾向があったことが大きいのではないかと分析しています。
なんとか親の期待に応えようと、受験勉強もスポーツも「頑張る」で乗り切ってきました。その割にはイメージ通りの成果が出ず、さらに「頑張る」を重ねて……。
仕事も同じです。でも、子育てを経て「もう限界なんじゃないか」と気付いたのが40歳を超えてからでした。
借金玉「普通にならなきゃ、頑張らなきゃ」っていうのは僕も完全にそうでしたね。父親が厳しくて、子ども時代は「ちゃんとやれ!」ってずっと怒られていました。
小竹 そういうわけで借金玉さんのご著書『発達障害サバイバルガイド』は前書きから共感の嵐で。前書きに「よりラクで、より快適な、より優雅生活をつくり上げよう」と書いてあり、それをしていいんだ、というのは目からウロコでした。
なかでも一番響いたのは「休息」の章です。私は40歳で限界を迎えて「頑張ること」と「そうでないこと」の分類はできるようになったのですが、今でも休むことは苦手で。昔は休まないことがカッコいい風潮がありましたが、今はちゃんと休むのが要求される時代ですよね。会社からも休みを取るよう注意されますが、休むと逆に体調が悪くなってしまいそうで。そこが自分の中で解決策が見つからない、今一番の課題です。
借金玉 お話を伺っていると非常に危ないというか(笑)。気力・体力を120%を引き出す働き方をされていますね。多動(ADHD)の傾向が強い方の働き方として非常によくあるケースで、ギリギリの状況でやるっていうことがその人の能力を引き出しちゃうんですね。
クックパッド株式会社Evangelist、コーポレートブランディング部本部長
1972年石川県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオでWEBディレクターを経験後、2004年有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。広告主とユーザーのwin-winを叶えた全く新しいレシピコンテストを生み出す。2006年編集部門長就任、2008年執行役就任。2010年、日経ウーマンオブザイヤー2011受賞。2012年、クックパッド株式会社を退社、独立。2016年4月クックパッドに復職、現在に至る。また個人活動として料理教室なども開催している。シンプルでおいしく、しかも手順がとても簡単なレシピが大人気で、生徒から「料理のハードルが低くなった」「毎日料理が楽しいと感じられるようになるなんて」の声多数。日経BPから上梓した『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』が現在7刷のロングヒットに。
対策の前に「現状把握」をしよう
小竹 どうすればいいんでしょうか?
借金玉 休みを優先順位の一位に持ってきて、先行して休む予定を入れるしかないですね。偉そうに言える立場じゃないんですが、バリバリ働いて限界を超えた分のツケは必ず吹き出してきます。できればツケがくる前に休む予定を入れていただくといいです。そのためには、休むこと自体が大事な予定であるという意識を持たないとダメです。意識改革を要することですが、仕事の予定を入れるみたいに休むという感覚ですよね。
僕も、どれだけ調子が悪くて仕事がグダグダなときでも休む日だけは先打ちで入れます。よくあるのですが、休んでないからといって仕事しているとは限らなくて、なんの生産性もないのにWordの前で長時間過ごしていたりする。徹夜したあとに何の成果も出てなかったと気付くんです。
休むのってそのときは損しているように見えて、実は生産性を高める行動なんですよね。そりゃ休まずに高い成果を出し続けることがベストなんですけども、それをやってるとどこかで倒れる。先打ちで休んでその分生産性を高めるのはベターな選択なんです。
小竹 そうなんですよね……そうやってダラダラしている時間もどこかであるのはよくわかります。頭で理解はしていても、日々の働き方をうまく変えられない自分にモヤモヤしてしまいます。
借金玉 小竹さんはクックパッドの創業期を築かれて、間違いなくバリバリ働く背中を見せてきた方だと思います。僕も創業期の熱狂には覚えがありますが、あの戦場を駆け抜けて来られた方ですからね。すると、長年働いてきた「型」を直そうと思っても、簡単には直せるものではないと思います。転んだ僕と違って見事駆け抜けたわけですし。なので、まずはご自身が今どういう働き方をしているのか、モニターしてみるのがいいのではないでしょうか。何時に起きて、何時に何をしているのか。「どうしたいか」よりまず「現状把握」のほうがずっと必要かもしれない。
小竹 ダイエットと同じですね。食事を記録すると痩せるみたいな。ちょっとやってみようかな……。30代は自分が猛烈に頑張れば会社は成長するっていうイメージがあり、限界がきたのが40歳のときだったので、また限界がこないように気をつけないといけないと、と思います。
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』。