
高橋洋一
2017年のノーベル物理学賞を受賞した米国人チームへの巨額の国家資金投入を考えると、このままでは今後、日本人の受賞は難しくなる。公的支援が伸びない中で提出論文自体のシェアも落ちている。「教育研究国債」発行で研究開発予算を大幅に増やす仕組みを考えるべきだ。

多額の国債で賄われている日本の国家財政は破綻しているのかどうか。政府と日本銀行が一体の「統合政府」のバランスシートで考えれば、問題はない。財務省は政府の負債だけを見て考えるから財政再建を間違うことになる。

補正予算編成の季節だが動きが鈍い。実は安倍政権になって以降、補正の緊縮度が強まっているのが実態だ。マクロ経済の視点よりも財政健全化を優先する財務省のグリップが効きすぎているからだが、これでは、成長も財政健全化も難しい。

民進党の代表戦が盛り上がらないのは、肝心の雇用の確保や賃金問題での論争がないからだ。失業率や賃金は、マクロの雇用環境に左右される。二人の候補者はマクロ経済のとらえ方や政策に知見が乏しく、「アベノミクス」の受け皿になる経済政策を打ち出せそうにない。

安倍改造内閣の経済政策の真価が問われるのは、秋の臨時国会で提出される補正予算だが、GDPギャップをもとに考えれば、20兆円規模の財政出動をすれば、「物価目標2%」は達成される。インフレを過度に心配する必要はない。

加計問題での国会の閉会中審査は「不毛な論争」に終始した感が強い。そもそも「総理の意向」や「加計ありき」で行政が歪められたというなら、証拠を示す責任は、野党やメディア、文科省にあるのにそれを果たそうとしないからだ。

加計学園問題の本質は、獣医学部は設置認可の申請すらできないようにしていた文科省告示が象徴する。告示撤廃をめぐって規制緩和を進める内閣府とのバトルがあり、文科省は押し切られた。ここの議論で「総理の意向」は入るはずもないのだ。

東京都の卸内市場問題は、回り道をして「豊洲移転」に落ち着いたが、「築地再開発」には、都民の負担がさらに増える可能性がある。豊洲推進派と築地存続派の両方にいい顔をした「八方美人」的な解決は、将来にツケを残すことになる。

加計学園の獣医学部認可は、許認可権を持つ文部科学省が認可「4条件」に合致しないというデータを示せば、実現はしなかったはずだ。「挙証責任」は文科省にあったのに、それをできなかった段階で、「総理の意向」と関係なく勝負はついていた。

加計学園の獣医学部認可をめぐって「総理の意向」と記された文書の存在を、前川喜平・前文部科学次官が認めたことで、野党の批判やマスコミ報道が熱を帯びる。だが、前次官発言には、規制緩和による新規参入阻止で敗れた文科省の悪あがきを感じる。

「こども保険」創設の提言を機に、子育てや教育の費用をだれがどういう形で担うかの議論が活発だ。「教育国債」発行の主張に対して、最も敏感に反応し反対するのが財政学者。だが財政学者は借金ばかりを見るから現状認識や判断を間違える。

教育への投資は、生産力の基盤を強め、国民の所得増や失業減にもつながる優良な投資だ。財源は、「教育国債」を発行すれば、将来、税収増などでもどってくる。消費増税や「こども保険」よりは筋のいい財源だ。

政府と中央銀行は一体だと考える「統合政府」の考え方で、政府が財政再建のシナリオとして描く中期試算を“修正”してみると、財政の基礎的収は2022年ごろには、試算より3年ほど早く均衡する。日本銀行の「出口」戦略にも、統合政府の考え方を生かすことだ。

日銀政策委員会で、大規模な金融緩和に慎重だった2人の委員に代わって、新たな委員を任命する人事案が国会に提出された。「リフレ派の増員」で、アベノミクスの超金融緩和のアクセルが踏み込まれることになりそうだ。

ジョセフ・E・スティグリッツ・米コロンビア大学教授が、先月、経済財政諮問会議に出席。日本銀行が保有する国債の「無効化」を提言した。政府と中央銀行を一体の「統合政府」とみて、政府の発行した国債と日銀保有の国債を“相殺”すれば、財政再建や消費税増税は必要がないという考え方だ。だがメディアではなぜか、提言は伝えられなかった。

第166回
豊洲移転問題で、基準値以上の地下水汚染が問題となっている。しかし、その混乱の要因が「基準」の問題だ。マスコミが報道している「基準」とは、あくまでも「環境基準」であって、「安全基準」ではないからだ。

第165回
森友学園問題が連日、国会やマスコミで取り上げられている。野党などの追及は国有地売却での首相の「政治関与」だが、根拠が曖昧だ。むしろ議論すべきは財務省のミス。歳入確保は増税ありきで、国有地売却に不熱心な姿勢が招いたものだ。

第164回
2月21日、平成29年度予算案についての衆議院予算委員会公聴会に公述人として出席し、財政再建で意見陳述を行った。その時のメモをもとに財政再建の問題を改めて、本コラムで書こう。

第163回
ゼロ金利の世界では、中央銀行によって得られる毎年の通貨発行益はわずかであり、金融政策による物価の押し上げ効果は弱くならざるを得ない。このため、国債を増発しても財政政策で有効需要を作ることが必要である。

第162回
文部科学省が元高等教育局長の早稲田大への天下りを斡旋したとの問題が出ている。この件で、前川喜平文科事務次官が引責辞任した。官僚の「天下り問題」はどうしてなくならないのだろうか。
