
高橋洋一
5月は失業率や求人倍率などが記録的に改善された。民主党政権でも失業率は低下したが、安倍政権では景気拡大で就業者数の増加が際立っている。マクロ政策が正しい方向で行われている証左だ。

金融政策には物価安定や雇用の確保とは別にもう1つの「顔」がある。財源を作る機能だ。異次元緩和策などでの日銀による大量の国債購入は「ヘリコプターマネー」や政府紙幣と同じ効果を持っている。

新潟知事選は与党支持候補が勝利し自民党は支持層の厚さを示した。野党が焦点にした「森友・加計」問題より雇用や北朝鮮問題が有権者の現実感覚にあった。野党は選挙戦術の根本的な転換を迫られる。

2019年10月の消費増税のため19・20年度の当初予算で景気対策が盛り込まれるという。だがその必要はなく「正解」は増税を延期すればいいのだ。財政再建の誤った考え方が無用の混乱を起こしかねない。

日本銀行が「展望レポート」で「2%物価目標」の達成時期の文言を削除したのは説明責任を放棄するものだ。それなら「インフレを加速しない失業率」になるまで緩和を続けるスタンスを明確にすべきだ。

財務次官の「セクハラ問題」は一役人のモラルの低さだけでなく、財務省の危機管理の稚拙さやメディアのあり方など、さまざま問題を露呈した。財務省の弱体化は避けられないが、それは日本の好機でもある。

米朝首脳会談をめぐる綱引きや米英仏のシリア砲撃など国際情勢が緊迫するが、国内は重要度がそう高いと思われない問題で政権が揺れている。国内基盤が盤石でない中で日本の国益が損なわれかねない。

物価が上がり始めた中で、「マイナス金利」で収益が悪化した金融機関や一部の経済学者から「出口戦略」を急げとの声が出ているが、時期尚早だ。物価が十分に上がらないのに利上げをすれば逆効果だ。

森友学園への国有地払い下げの決裁文書改ざんを首謀したのは、電子ファイルに修正痕跡が残ることを知らなかった“旧世代”の官僚だと思われる。再発防止には公文書管理を電子システム化するのが有効だ。

1月の失業率が2.4%と24年9ヵ月ぶりの低水準になった。いずれ賃金上昇への目配りも必要になる時期が来る。だがそれでもインフレ率との関係で見るとまだ最適点に達していない。金融緩和の「出口」論を言うのは尚早だ。

安倍政権の経済政策は雇用の確保が軸に位置付けられており、日銀の国債買い取りを中心にした異次元緩和も「統合政府」論の考え方をとれば問題はなく、アベノミクス批判は当たらない。

コインチェックの仮想通貨不正流出問題で浮き彫りになったのは、技術が進み過ぎ、安心して取引できる法整備が追いついていないことだ。仮想通貨の命運は規制強化や処分がどうなるかがポイントだ。

アベノミクスのもと「異次元緩和」が続くが、そもそも首相はなぜ「リフレ派」になったのか。06年3月の量的緩和の解除「失敗」で金融政策に関心を強め、その後も金融政策は雇用政策だと理解を深めてきた。

日本郵政の現状や商工中金の不祥事を考えると、特殊法人などの「民営化」が十分に成功しているとは言い難いが、水道事業を民間に開放する「水道の民営化」は、国民のためになる民営化の成功モデルになり得る。

2012年の安倍政権発足後、5年を迎えたが、アベノミクスの「通信簿」をつけると、百点満点で「70点」だ。消費は伸び悩んだが、雇用の確保に成功したから及第点をつけられる。過去30年で就業者数を増やした政権は、橋本、小泉、安倍政権だけだ。

電波オークション導入を「検討」する答申を規制改革推進会議が出したが、メディアの中には「先送り」との報道もある。安い電波利用料で済んでいる既得権益を侵されるので、自分らに都合よく答申を解釈したのでは、と勘繰りたくなる。

森友学園への国有地払下げで会計検査院が値引きの妥当性の根拠が十分に検証できないという報告書を公表した。改めて追及されるべきは、「総理の意向」ではなく、裁量で異例の売却をした財務省の失策であり、ミスを糊塗しようとした虚偽答弁だ。

新聞やテレビが世間の常識からズレた報道を時にするのは、法律や規制で守られ「既得権益」化しているからだ。例えば参入自由の電波オークションを導入すれば競争が生まれ報道や番組の質も上がる。

総選挙後の経済運営で焦点になるのは、「人づくり革命」での教育無償化や首相が言及した「3%賃上げ」だが、財政健全化を重視する財務省主導で進められる限り、教育無償化などもシャビーなものに終わりかねない。そうならないための方法はある。

若者の「右傾化」が言われるが、「外交に関する世論調査」を追えばそれほどではない。一方で第二次安倍政権のもとで「自民党支持」が強まった。若者は雇用に関心が高いうえ、安倍政権批判を展開するテレビを見ずネットから情報を得ているからだと考えられる。
