
井上哲也
FRBはトランプ関税によるインフレ圧力の高まりは一時的なものとみて、インフレ収束後に年内2回の利下げで景気を下支えするシナリオを描くが、関税引き上げ分の価格転嫁やトランプ減税の消費などへの影響が出る時期は不確かだ。移民流入規制による労働供給の減少でインフレ圧力が長く残る可能性もあり、シナリオ通りになるかは不透明だ。

日本銀行はトランプ関税などの影響を挙げ5月展望レポートの経済・物価見通しを下方修正し、物価上昇基調が2%目標に達する時期も実質的に1年先送りした。だが企業の賃上げや価格転嫁などの積極化や日銀の先を見越した政策運営を考えると、日銀の次回の利上げが単純に1年先送りされるとは限らない。

3月FOMC(米連邦公開市場委員会)はトランプ政策の影響の見極めから政策金利据え置きを決めたが、新たな見通しでは2025年のインフレ率を上方修正したものの関税引き上げの影響は一時的で、景気への下押し圧力もそれほど強くないとの予想から年内2回の利下げ見通しは維持された。だが家計や企業のマインド次第でシナリオが崩れる懸念も残る。

日本銀行は1月金融政策決定会合で3回目の利上げを決め金融政策正常化をさらに進めたが、会合に向けては市場で当面は政策金利を据え置くとの予想もあり、市場との認識の共有は十分とはいえなかった。年内、さらに利上げが見込まれるが、インフレ期待上振れリスクへの対応や国債買い入れの運営方針の明確化などの課題も残る。

日本銀行が公表した非伝統的金融政策についての「多角的レビュー」は、インフレ期待への効果は下回ったが、 全体としては日本経済にプラス効果が上回ったと総括した。しかし国債大量買い入れに伴う副作用が今後も大きいなど、将来、非伝統的金融政策を行う場合の課題をむしろ示唆する内容となっている。

日本銀行は10月金融政策決定会合でも9月会合に続き追加利上げを見送った。だがその一方で米国経済の減速動向を見極めるとして、追加利上げの判断には「時間的余裕がある」としてきた姿勢を修正した。7月のサプライズ利上げでの市場の混乱以前の金利正常化の基本シナリオに“回帰”したと考えられる。

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月FOMCで政策金利を0.50%引き下げる4年半ぶりの利下げを決めた。失業率上昇などの雇用情勢の軟化から下げ幅を通常の2倍に拡大したが、今後の利下げペースは不透明だ。インフレ再燃の懸念や米国経済の中立金利の水準が実質的に上昇している可能性があるからだ。

日本銀行は国債買い入れ減額と同時に政策金利の追加引き上げを決めた。個人消費に弱さが見られる中で、金利上昇につながる国債買い入れ減額との「同時利上げ」の予想は少なかったが、賃上げ波及など景気と物価の好循環に自信を深めていることや円安対応を意識したことが考えられる。

日銀は14日の金融政策決定会合で国債買い入れ額を現在の「月6兆円程度」から減らしていく方針を決めた。7月に具体的な減額計画を決めて実施する。3月の利上げに続き、国債買い入れによる量的引き締め策も開始することになるが、異例の“事前予告”には国債や為替市場の不安定化を避けたい思惑が感じられる。

日銀は「YCC柔軟化」を皮切りに短期金利の調節による伝統的政策へ回帰を目指しているが、巨額政府債務などのため国債の安定消化の重要性は変わりそうになく、長期金利の影響を行使する枠組みから完全に決別するのは難しそうだ。

日銀がYCCの運用「柔軟化」を決めたのは実体経済の好転などによる物価の上振れリスクを重視し金利上昇に備えたものだ。金融緩和の持続性を高めるというのが日銀の表向きの狙いだが、大規模緩和の終わりの始まりと考えたほうがいい。

直近の国際金融都市ランキングで、東京が21位とトップ20からも外れたのは調査会社や評価の仕方に疑わしい点がある。だが、重要なのは目指す国際金融都市のビジョンを固め、足りない点を改善することだ。

物価上昇が続き「緩和維持」の植田日銀への世論の風当たりは“ハネムーン期間”が過ぎ変わる兆しだ。7月の展望レポートでは物価見通しが上方修正される可能性が高いが、植田総裁のコミュニケーション力が問われる局面だ。

金利面での引き締めを緩めているFRBとECBが保有資産削減のペースを維持しているのは、量的引き締めの効果が定量的な推計が難しい上、量的緩和とも効果が「非対称」のため慎重に進める必要があるからだ。

日銀が打ち出した金融緩和策の「レビュー」は中長期的な視点での非伝統的金融政策の評価・検証が狙いというが、その成果は緩和を維持する場合の副作用抑制や「出口」に向けた政策柔軟化の地ならしに活用することも考えられる。

「植田日銀」でも政策金利や国債購入を一定条件が満たされるまで続ける「ストック」の手法を重視する金融政策が続けられる見通しだ。この手法は市場の信認を得たり資産バブルを生み出さないようにしたりする工夫が重要だ。

植田和男氏の日銀新総裁起用は「サプライズ」と受け止められたが、最初の量的緩和策の理論的裏付けをするなど、異次元緩和からの正常化という課題を抱える日銀のかじ取りを担うには適役だ。

日銀は昨年末、「国債市場の機能回復」を掲げて政策変更をしたが、金利のゆがみは解消されていない。裏に「金融政策正常化」の地ならしの思惑があったことを考えると、次の一手はYCCの政策金利引き上げやYCC自体の撤廃が予想される。

日銀のイールドカーブコントロールの長期金利上限引き上げは市場機能の改善を理由にしているが、実質的な利上げを意味する面があり、市場がみるように結果的には金融緩和正常化の第一歩となる可能性は否定できない。

ECBの金融政策は今後、小幅な利上げでの対応に変わる可能性が高い。政策金利が中立的な金利水準に達した一方で、高インフレが峠を越え景気後退のリスクをより重視する姿勢からだ。
