
鈴木明彦
長くデフレが問題視されてきたが、消費者は企業が販売価格は変えないで量を減らしたり質を落としたりする「見えない値上げ」を感じている。これが広がれば成長を妨げる恐れがある。

政府の景気判断に従えば、来年1月には「戦後最長の景気拡大」を達成することになる。それが既定路線になっているが、しかし在庫循環や景気動向指数の動きから判断すれば、景気後退はすでに始まっている。

日本銀行の「政策修正」の意図を忖度すれば、「脱デフレ」の金融政策を終わらせようと動いていることがわかる。長期金利の上昇余地を作っただけでなく「マイナス金利」をやめる布石も打ったと考えられる。

「量」の拡大から、高付加価値の製品やサービスを生み出す「質」の向上で経済成長するのは成熟化の現れだが、賃金は増えなくなった。改良型の質の向上ではその分を価格に転嫁するのが難しいことが一因だ。

米中貿易摩擦は日米摩擦とは違い、覇権を求める大国を軸にした“貿易戦国時代”につながる可能性がある。日本が生き残る道は、米中との「連衡」でなく、覇権を求めず自由貿易の価値観を共有する国との「合従策」だ。

デフレとの戦いが泥沼状態に陥っているのは、政府が金融緩和圧力をかけ続ける思惑から「デフレ脱却」の定義を厳しくしたからだ。緩やかなデフレを受け入れ「2%物価目標」の運用を柔軟にすれば、デフレを「敵」とみなす必要もなくなる。
