金山隆一
三菱ケミカルグループ、住友化学、三井化学の財閥系大手化学3社の2024年3月期決算が出そろった。三菱ケミカル、住友化学は、ともに25年3月期の業績改善の見通しを発表したものの株価は下落、3社のなかで売り上げ規模が最も小さい三井化学だけが5月15日の決算会見当日に年初来高値を更新し、明暗が分かれた。株式市場は三井化学の何を評価し、住友化学と三菱ケミカルの何を評価しなかったのか。

住友化学が創業以来の危機を迎えている。2024年3月期に医薬品子会社とサウジアラビアの石油化学事業で巨額の減損損失を計上し、過去最大の3100億円の赤字に陥る見通し。4月30日に開かれた事業戦略説明会で、岩田圭一社長が国内外で約4000人の人員削減などのリストラ策を公表したが、市場は厳しい評価を変えていない。最高値から3分の1に落ち込んだ株価を反転させるきっかけはあるのか。

EV(電気自動車)や再生可能エネルギーの普及で需要の急拡大が見込まれる銅で、総額約44億ドル(6600億円)の大型鉱山拡張プロジェクトがチリで動き出す。銅市況は4月8日に9400ドル台と2023年1月以来の高値を付けた。非鉄商社の顔も持つ丸紅がチリに投じるリスクマネーは約800億円。同社がこの2年で投じた成長投資7400億円の約1割に過ぎないが、日本の消費量の1割に相当する高品位の銅が日本にもたらされる。なぜこの規模の投資で巨大な資源開発が可能になるのか。成功すれば脱炭素時代に日本が進める資源開発のひな型となるかもしれない。

保険金水増し請求の不正で問題になった中古車販売大手ビッグモーターの買収に伊藤忠商事が乗り出した。伊藤忠はグループでレンタカーや高級外車のヤナセなど自動車関連ビジネスを展開してきたため、この分野の延長戦にあるとみえるが、実は、主導しているのは住生活とエネルギー・化学品の社内カンパニーだ。伊藤忠がこれまでに打ってきた布石をつぶさに分析するとビッグモーター買収に隠された野望が見えてくる。買収金額の独自試算とともに、見えてきた3つの戦略を探った。

#11
住友化学が創業以来最大となる赤字に陥り、苦境に立たされている。株式市場が石油化学業界全体が抱える構造問題を解決する再編や、成長著しい半導体や蓄電池の部材供給といった成長事業への大胆なシフトを求める中、ヘッジファンドは赤字出血を止める事業の売却を巡りしたたかな計算をしている。

三井物産がパルプ世界最大手で森林メジャーともいわれるブラジル企業と提携し、パルプから出る残渣(ざんさ)物や植林資源を使い、バイオ燃料やバイオ化学品を生産する脱炭素ビジネスに乗り出す。同社がこれまで挑戦しては撤退を繰り返してきた植物由来のバイオ化学品事業と、どこが違うのか。担当者を直撃した。

#11
脱炭素を実現するまでの移行期の中核的なエネルギーと目されるのが液化天然ガス(LNG)だ。現在も世界市場は毎年4%成長しており、三菱商事や三井物産もLNGビジネスの拡大を狙っている。だが、そこに“伏兵”が現れた。長期契約が主流だったLNGの世界市場でスポット取引が増えたことをチャンスとみて、石油メジャーや欧州の資源トレーダー、そして中国企業が参入し始めたのだ。商社は新時代のLNGビジネスに適応できるのか。

#10
大手商社の中で中国に投融資したリスクマネーが最も大きいのは伊藤忠商事だ。しかも同社の対中リスクマネーは直近3年で5000億円近くも膨れ上がっている。その原因こそ2015年に6000億円を投資した中国中信集団(CITIC)だ。伊藤忠の中国リスクが膨らんでいくからくりと、その負の影響を明らかにする。

#5
総合商社は、投資家から、化石燃料ビジネスから脱炭素ビジネスへの転換を求められている。だが、利益率が高いのは前者であるため、商社には葛藤がある。その葛藤を象徴するのが、三菱商事が利益の3~4割を稼ぎ出す製鉄用石炭(原料炭)だ。同社が“優等生”的に、原料炭2鉱山を売却した一方で、スイスの資源商社グレンコアは脱炭素時代の「座礁資産」といわれる石炭を買いあさり、巨利を得ているのだ。グレンコアの猛追に対し、三菱商事はどんな手を打つのか?

#4
東南アジアは電力供給の多くを、日本の総合商社が建設に関わった石炭火力発電所に依存している。この主力電源からの温暖化ガスの排出抑制を支援することが、日本のアジアにおける「脱炭素外交」の中核だ。日本が主導する「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想のキーパーソンで、内閣官房参与でもある前田匡史国際協力銀行会長は、「アジアの現実に沿った脱炭素の対策とルール作りが重要」と言う。具体的な取り組みとどんなプロジェクトが浮上しているのか。

#77
独自の投資戦略で数々のM&A(企業の合併手・買収)を成功させてきたオリックス。世界経済の分断が進むなかで2024年にどう挑んでいくのか。オリックスの井上亮社長・CEOに今後の投資戦略を聞いた。

#3
米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが日本の五大商社の株を取得したことが判明した2020年8月から3年4カ月がたち、丸紅の株価が4.7倍に上昇している。他の4商社の株価が2~3倍にとどまっているのに、なぜここまで伸びたのか。その裏には、日本の企業では禁断となっているある種の情報共有と、柿木真澄社長が自らに課した経営の三つのタブーがあった。

#5
人口減少と地域経済の停滞で店舗やATMのコストが重くのしかかる地方銀行。銀行の低PBR(株価純資産倍率)も問題となっている。だがピクテ・ジャパンの大槻奈那シニア・フェローは、再編は必ずしも解決策にはならず、生き残るための“ウルトラC”があると力説する。それは何か?

#3
設立から5年で法人口座数を10万超に増やしたGMOあおぞらネット銀行。業界最安値の水準だった送金手数料や28種に及ぶ無料銀行APIも話題となったが、支持された要因は金融サービスの徹底的な使いやすさと改善のスピード。メガバンクをも超える技術力と人材の秘密に迫った。

#1
Suica9956万枚、日本の人口に匹敵する数の交通系ICカードを持つ東日本旅客鉄道(JR東日本)が来春銀行業に参入する。迎え撃つ銀行は“ラスボス”の登場を警戒するが、あまたある金融サービスのどこに焦点を絞っていくのかはいまだ見えない。それがさらに不気味さを醸し出しているのだが、具体的に動向を見ていくと、JR東日本の巨大な顧客基盤を手中に収めようとするジョーカーの存在が浮かび上がってきた。

予告
銀行業に「異業種侵入」の衝撃!JR東、au、PayPayの巨大顧客基盤やフィンテックに既存銀行は勝てるのか
鉄道や携帯電話事業などで圧倒的な顧客基盤を持つ企業が銀行業に参入している。交通系ICカードで延べ1億人の会員を持つ東日本旅客鉄道(JR東日本)、携帯電話市場での3割のシェアを背景に、国内最低水準の金利で住宅ローン市場を攻めるKDDI(au)、キャッシュレス決済で7割のシェアを獲得したPayPay。ATMも店舗も持たないネオバンクは、フィンテックを活用して使いやすさを追求し、日常の決済や個人送金にとどまらず、ベンチャー企業や中小企業向けの融資など、銀行リテール市場の攻略も視野に入れ始めた。迎え撃つ銀行は生き残れるのか。異業種の銀行参入の破壊力を徹底検証するとともに、国際ビジネス展開できない地方銀行はどう生き残ったらいいのかも探った。
