以前、日経BP社のウェブサイト「日経ITpro」において、「ITを経営に役立てるコスト管理入門」というタイトルで、全70回のコラムを連載していたことがある。その第8回で「誰が『原価計算基準』を殺したか」というタイトルのコラムを執筆した。当該コラムを公開したのが06年7月。パソコンの法定耐用年数(4年)を軽く超える歳月が経過した。
ところが、この程度の年数では、まだ足りないのだろう。企業会計審議会『原価計算基準』は、相変わらず何ら改定されることなく、仮死状態が続いている。「眠れる獅子」どころか、「死せる獅子」といったところか。
この4年の間に、筆者は『原価計算基準』に見切りを付け、お手製の原価計算システム『原価計算工房』をグレードアップさせた。理論面でも、10年5月に『実践会計講座/原価計算』(日本実業出版社)を刊行し、「一般に公正妥当と認められる原価計算の基準」に則した『原価計算規程』をウェブサイト上で公開するまでに至った。
「責難は成事にあらず」(相手を非難する行為と、自ら成し遂げる行為とは異なる)を常に肝に銘じているので、ここまでの「事を成し遂げて」おけば、上場企業から中小企業まで、全国100万社すべてに蔓延している「コスト管理の誤謬」を糺(ただ)す資格くらいはあるだろう、というのが今回の趣旨である。全国100万社と大風呂敷を広げるからには、製造業だけでなく、流通業・サービス業・ソフトウェア産業なども網羅している。
また、第36回コラム(益出し操作編)のとき、『国際会計基準IFRSでは、予定配賦率などの予定原価(または標準原価)が実際原価と「近似」しない場合は、予定配賦率を使った「簡便法」はダメ出しされるので注意して欲しい』と述べた。今回のコラムは、「IFRS対策」に振り回されている上場企業などへの、ちょっとした脅しも兼ねている。
前回コラム(TBS編)では、誰一人として気づかぬ「大どんでん返しの経営分析」を披露した。今回は「どんでん返し」とまではいかないものの、アサヒビールの決算データを拝借して、正確に「右へ90度」傾けたコスト管理の話をしていこう。拙著『実践会計講座/原価計算』第13章の番外編でもある。
世間では尖閣問題・円高不況・大阪地検・情報漏洩と、立て続けに事件が起き、窪地ができるとそこへワッと水が流れるがごとく論者が集まる。それを尻目に、今回はコスト管理という、腰をすえた話である。次回(パナソニック編)で紹介する「トレードオフ分析」への露払いでもある。