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尖閣諸島問題に端を発した中国政府による日本へのレアアース禁輸は、11月下旬になって通関手続きが改善され始めた。大畠章宏経済産業相は、「明るい雰囲気が出てきた」と発言、問題収束への期待をにじませた。他方、レアアース等の天然資源確保の重要性を思い知らされた日本政府は、26日に成立した補正予算に急きょ872億円(このほか特別会計140億円)の政策費を盛り込んだ。
経済産業省が示した当初の補正予算案は999億8000万円であり、その内訳は、鉱山開発や供給確保、債務保証などに約460億円、代替技術開発などに約120億円、その他リサイクルや産業の高度化のために約420億円といった内容だった。“満額”が認められたことになり、日本政府の動揺ぶりがよくわかる。
日本のレアアース市場規模は1000億円程度だ。補正予算はそれにほぼ匹敵する巨額なものになった。それでは、いかばかりの効果が見込まれるのだろうか。
補正予算は単年度予算だから、その1年のうちに使い切らねばならず、次年度の本予算における方針は現時点では見えない。「1年で成果の出る研究も鉱山開発もあるわけはなく、必要なのは長期的な資源戦略だ。この補正予算からは、それが見えない」(研究機関関係者)というのが、代替技術やリサイクルの研究機関、鉱山開発関係者の本音だ。
実際、このレアアース補正予算を組む過程では、現状課題の把握、戦略構築と実施に関して綿密な議論が行われた形跡は薄く、「ざる勘定」と、ある経産省関係者は呼ぶ。
なによりも、日本がレアアースの輸入のほぼすべてを頼る中国に対する対策が欠けている。仮に、「脱中国」戦略が奏功し、新しい鉱山開発などが順調に進んだところで、年率約10%ずつ拡大している日本の需要を満たすことは、とうてい不可能である。短期・中期的には、中国からの輸入に頼らざるをえない。だとすれば、中国が望む技術供与など、いかに「あめ」を用意するか、産業界との共同戦略による中国との関係修復が、レアアース外交には必須であろう。
現在関係者は、年末に中国が決める来年のレアアース輸出量に注目している。なぜなら、「来年はさらに海外枠が絞られる」(中村繁夫・アドバンストマテリアルジャパン社長)ことは確実だからである。
そうなれば日本の企業同士の争奪戦が激化することになりかねない。レアアースを取り扱う各商社へは、なんとしてでも来年分を手に入れなければと必死になるメーカーからの問い合わせが、すでに殺到しているという。
現在の中国からの輸入量は3万0258トンだが、中村社長は「2万5000トン台まで減らされることもありうる」と読む。15%以上も削減されれば、各メーカーは生産計画を見直さなければならなくなるだろう。レアアース問題は収束するどころか、さらに危機の度合いを深めているのである。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 脇田まや)