シンプルな原点回帰のビジョンには、F1に代わるような華やかなシンボルは存在しない。注力するのは、よりよい商品を早く安く届けること。そして、環境技術を追求したクルマ作りだ。伊東社長に、原点回帰の真意を聞いた。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)
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われわれはお客様の視線を忘れていた。リーマンショックのおかげで頭を冷やすことができた。それまでの10年間はかなり調子に乗っていて、先進国を中心に中大型車のほうへ開発も商売もシフトしてきた。「それではダメだ」と堂々と言える時代になり、思い切った選択と集中を実行できた。
プロダクトアウトに走ることはいいことだし、否定するわけではない。しかし、お客様の選択の目はより厳しくなった。お客様がよいと思えるものをどこよりも早く出していくというのがいちばんの勝負どころだが、よいものを早く作ればおカネをどんどん出してもらえるわけではない。求めやすい価格であることが重要視される。
軽自動車が国内需要の3~4割を占め、さらに半分を占めるまでになろうかというなかで、生産効率を高め、軽や小型車などでホンダらしさを出して利益を生める企業体質をつくる。非常に大変なことではあるが、これをやらない限り、うちの会社の存続はない。追い込まれているというより、当然やらなければいけないことに全員で集中できる環境になった。