この現状を重く見た警察庁は15年1月、道路交通法の改正試案を打ち出した。

 現行制度では、75歳以上が運転免許証を更新する際に義務付けられている「認知機能検査」で、たとえ「認知症のおそれあり(第1分類)」と判定されても、過去1年以内か、更新後一定期間に逆走など違反行為がなければ、医師の診断を受けることなく免許の更新が可能だった。

 だが、第1分類と判定された人は受検者全体の2.4%、3.5万人(13年)にすぎず、このうち、医師の診断を受けたのはわずか524人にとどまる。「認知機能低下のおそれあり(第2分類)」「おそれなし(第3分類)」と判定されても、次の更新までの間に、認知症が急速に進行し、事故を起こすケースも起きている。「認知症の進行度合いには個人差がある」(警視庁幹部)からだ。

 改正試案では、第1分類と判定された全員が医師の診断を受け、そこで認知症と診断されれば免許が取り消される。第2~3分類と判定されても、一定の違反行為があれば、臨時検査を受けなければならない、など認知症ドライバー排除に向け、かじを切った。

 それでも問題解決とはならない。改正試案に、日本精神神経学会がかみついた。「認知症と危険運転の因果関係が不明」「診断医の確保が困難」などが異議表明の理由だ。

 また、地方では自家用車は高齢者のまさに“足”。行政が代替となる移動手段の手当てをしなければ、高齢者の社会的孤立という別の問題が深刻化する。

 免許を取り上げても、抜本的な解決策にはならないという声も大きい。「認知症患者は免許の有無とは無関係に、車に乗ってしまうこともある」(警察関係者)からだ。

 改正試案の対象となる75歳以上の免許保有者だけで全国に425万人。65歳以上に至っては、1500万人を超える。超高齢化と認知症患者の増加で、日本の交通行政は大きな岐路を迎えている。

 交通事故と並んで、全国の警察の頭を悩ませているのが、認知症患者の行方不明だ。「子どもの迷子よりも労力を使う。名前さえ分からないことも多く、見た目の特徴だけで捜さなければならない」と警察関係者は吐露する。

 警察庁は12年から認知症を原因とする行方不明者の集計を始めたが、13年に警察に「行方不明者届」が出された数だけでも年間1万人超、1日30人近くがこつぜんといなくなっているのだ(下図参照)。

 中でも、深刻なのは首都、東京都だ。都道府県により行方不明者届を出すまでの手順が異なるため、一概に比較はできないが、届け出の1週間以内の発見率は、全国平均98%に対し、警視庁は91%にとどまる。

「地域コミュニティの希薄化に加え、交通機関が発達しているので、短時間のうちに遠くに行ってしまう」と警視庁。都担当者も「飛行機に乗って、九州など遠方で保護されたケースもある。個人情報の秘匿意識が強く、地方のように防災無線で周知することもできない」と肩を落とす。