ダニエル・カーネマン教授がノーベル経済学賞を受賞し、脚光を浴びた行動経済学は、簡単に言えば、人は不確実性下では合理的な判断をするとは限らないという立場にたつ経済学である。いわば、心理学の視座を取り込んだ経済学と言える。
カーネマンらのプロスペクト理論は、経済学にとって、ある意味で革新的なものだった。
まず、次の各問いを考えてほしい。A・Bのいずれを選びたいと思うだろうか。
【問1】
A=80万円もらえる。
B=100万円もらえるが、15%の確率でもらえない。
【問2】
A=80万円を払う。
B=100万円を支払うが、15%の確率で払わなくてよい。
これまで見てきたように、多くの人の直観による答えは、統計学に従うものではない。この問題も、損得を考えて確率で判断すると、問1はB、問2はAというのが正解だが、そう答える人は非常に少ない。これは期待値(平均値)の問題であり、Bは、問1も問2も100万円×85%=85万円で、平均85万円。
たいていの人は、問1ではAを選び、問2ではBを選ぶ。ところが、このA・Bという組み合わせは、このゲームを何度も繰り返せば損が累積されていく。それを選んだ人は、相場格言の「損切りは早く、利は伸ばせ」の逆を行ないがちなタイプだと言える。
少し辛い響きを持った言葉かもしれないが、市場では「鴨ネギ」派ということになる。
ちなみに、A・Aを選んだ人は「慎重」派。いつもニコニコ現金商売というタイプ。B・Bを選んだ人は「ギャンブラー」派だろう。B・Aを選んだ人は、「相場がうまい、金儲けがうまい」タイプである。
従来の経済学への疑問
この問題で性格までわかってしまうのだが、こうした一連の実験から得られた知見に対してノーベル経済学賞が授与されたのはなぜだろうか。
従来の伝統的な経済学(新古典派以降の経済学)では、大雑把に言えば、「人は合理的」「市場は効率的」ということを前提としている。もちろん、ここでいう「合理的」は日常語としての意味ではない。経済学でいう「合理的」人間であって、一貫して自分の効用を満たす人のことを指す。