昨夏の遅配騒動後、最大の懸念だった年末繁忙(お歳暮、年賀状の配送)を乗り切った途端、今度は成果主義を大義名分にした賃金カットが打ち出された
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 公務員時代の年功序列から、民間企業並みの成果主義へ──。

 日本郵政グループの郵便事業会社、日本郵便が早ければ今年4月にも賃金体系の大幅な見直しに踏み出すことが明らかになった。関係者によれば、すでに昨年秋から水面下で、正社員の9割以上を組織する日本郵政労働組合(JP労組)と協議を進めているという。

 成果主義といえば、聞こえはいいが、要は、大幅な賃金カットに踏み切るということだ。まず全社員の賃金を下げ、そのうえで、一部の社員にのみ、成果配分することで、年間約1兆円の人件費のうち500億円を削減する見込みだ。初めに人件費削減ありきの、後ろ向きの成果主義である。

 2003年の郵政公社化時、公務員の年功序列型賃金に、勤務評価を反映させる“成果主義”を導入してはいたが、賃金への反映はごくわずか。それとは比べものにならない賃金体系の見直しだ。

 というのも、日本郵便の今年3月期の決算は約1000億円の営業赤字、540億円の純損失となる見込みで、危機的状況にある。平均で年間600万円台半ばの賃金は、400万円台半ばとされる、ライバルのヤマト運輸や佐川急便に比べて高く、賃金引き下げは避けられない問題だった。

 だが、社員の心境は複雑だ。今期の郵便事業の赤字は、経営判断のミスによるものが小さくない。日本通運との宅配便事業統合会社「JPエクスプレス」の大赤字は経営陣の準備不足による統合の遅れが原因であり、大口顧客離れを招いた昨夏の遅配騒動もまた準備不足と行き過ぎた人員削減が原因だった。

 にもかかわらず、昨年は日本郵便だけで6000人の非正規雇用社員を正社員化(賃金は約3倍に)する一方で、この3月末で4000人規模の早期退職勧奨を進め、さらに4月からは2万人以上の高齢者(65歳以上)を退職させる。年明けには、12年度の新卒採用中止も決定するなど、コスト増とコスト削減の相反する人員戦略を進めている。

 たび重なる経営判断のミスと、迷走する人員戦略のツケを回される社員は怒り心頭だが、賃金カットには早くも諦めの空気が漂う。郵政グループの労組幹部いわく、「2月の組合大会直前に経営側が出してくるベアゼロや賃金カット要請を、“労使協調”を旗印に、緊急動議のかたちで丸のみする出来レースのシナリオはすでに描かれているだろう。“ボス交”の今の焦点は金額。どこまで賃金をカットされるかだ」。

 御用組合と揶揄されるJP労組は、全国の幹部を招集して開催する中央委員会を2月中旬に控えている。かたや郵政グループは今月28日までに、総務省に経営改善策を提出しなければならない。はたして、両者はどの程度の賃金カットで折り合うことができるのか。水面下のせめぎ合いは最終局面を迎えている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 小出康成)

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