この短期連載では、経営者、顧客サービス、企業文化、社員とのつながり、ポジティブ心理学の応用と、さまざまな側面から、ザッポスとCEO(最高経営責任者)のトニー・シェイに近づくべく掘り下げてきたが、今回で最終回となるその締めくくりに、読者からの質問も多かったザッポス・ライブラリーの全容を紹介する。

顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説』の著者でザッポスのCEO、トニー・シェイは読書好きである(文章を書くのも好きだ)。そして同書中でも明かされているとおり、これまでこの短期連載で綴ってきた多くの革新的なザッポス経営のアイデアは、ザッポスのまったくのオリジナルではなく、彼らの読書を中心とした探求と学習の中から生まれたものである。

 実際、経営陣から社員までザッポニアン(ザッポスの人々)は実によく本を読む。その基盤となっているのが、ザッポス・ライブラリーである。

 ザッポス・ライブラリーは、トニー・シェイらがお薦めの本を、社員や来社客のために揃えているものだ。ラスベガスのザッポス本社を訪れた人なら、オープンに誰でも見ることができるものだが、この短期連載の最後に、筆者が把握する限りの内容を紹介したい(ザッポス・ライブラリーは入れ替えもあること、またスペースの関係から、ほとんどがリストになってしまうことをご了承いただきたい)。

 写真がザッポス・ライブラリーである。本格的な経営書や心理学などの難しそうなものもあるが、プロフェッショナル・コーチや自己啓発の講演家などが書いたソフトなノウハウ本も並んでいる。いずれにしても、社員ひとりひとりにザッポス・ライブラリーが行き渡っているのである。2010年夏にザッポスを訪問した筆者が、ライブラリーの一冊をひとつ手に取ると、ごく普通の社員が『それはいい本だよ』と話しかけて来たのは鮮烈な体験だった。

 経営者が読んだ本を社員に薦めること自体は、日本でもさほど珍しいことではない。ただし、多くのケースで日本の経営者の思いが届いていないのは、社員は薦められた本を実際にはあまり読んでいないと思われることである。逆に日本企業のスタッフが経営者にぜひ読んでもらいたいと思った本を手渡しても、ほとんどの場合は放置され、スタッフは悲しい思いをする。ベンチャー企業でも大企業でも似たような状況である。

 いずれの場合も、目の前の仕事とは関係ないと認識されるからだろう。日本企業の人々は忙しすぎるのかもしれない。

 そうした日本の状況を鑑みると、経営者と従業員が同じ本を読みあうザッポス・ライブラリーはステークホルダーの間のリアルで小さなネットワークであり、かけがえのないものであると思える。ザッポスのコア・バリューの5番目『成長と学びを追求する』の実践であり、その象徴となっているのがザッポス・ライブラリーである。