GEで長らく親しまれてきた人事制度「セッションC」や評価基準の代名詞ともなっていた「9ブロック」が、大幅刷新されました。というのも、ものづくり+デジタルサービスの勝者をめざして大変革をめざすGEが、経営戦略の転換とともに人材育成や組織文化の刷新をも図ろうとしているためです。その具体的な手法や狙いについて、日本人唯一のコーポレートオフィサーである熊谷昭彦・GEジャパン社長兼CEOに聞きます。
前回、行動基準が「GEバリュー」から「GEビリーフス」に改められた点を紹介した。そうした組織文化の改革の一環として、社員の評価や育成法も大きく変わろうとしているので、今回はその点を述べる。
まず、社員の評価対象はこのGEビリーフスをどれだけ自分のものとして実践しているかが大きい。ただし、その達成度合いを点数に置き換えて評価する方法はとらなくなった。そのため、GEの代表的な人事制度であった「セッションC」や人事評価で大きなウエイトを占めていた「9(ナイン)ブロック」などのテンプレートはすでに廃止している。
「セッションC」は基本的に年に一度、第1四半期末に各部署のリーダーが自分の組織と主だった人たちの可能性と現状とのギャップをまとめてレビューする制度だった。個人の育成や昇進、後継計画や、人員配置の適正化に活かされ、戦略的な人事制度の根幹をなしていた。
そもそもセッションCという名称自体、私たちもいつから始まったのか思い出せないくらい前から使われていた。もちろん当初は意味があって「セッションC」と名付けたのだろうが、いまや社内用語としての意味しかもたなくなっていた。そこで、もっとわかりやすい名称にしようと、そのものズバリの「ピープルレビュー」と名付けられた。
ピープルレビューも目的とするところはタレント(能力、適性)のレビューという点でセッションCと同じである。参加メンバーもセッションCと同じく、チームを率いるリーダーと担当人事、その上司と上司につく担当人事の4人が基本となる。ただ、そのプロセスとその場で話す内容が少々変わった。ピープルレビューでは、組織戦略や人事戦略に拘泥せず、個々人の可能性をディスカッションすることにフォーカスしている。
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かつてのセッションCは数十ページもの資料を作成し、それをもとに組織の過大を議論するとともに、社員1人ひとりをレビューするものだった。なかでも重視されたテンプレートが9ブロック(右図)だった。9ブロックは縦軸にパフォーマンス(業績)、横軸にグロースバリュー(価値観)を取り、その2軸を3つのレベルに分けて9つのブロックからなるマトリクスをつくり、それぞれの社員をレーティングするというものだった。
マトリクス内には「ベスト」「優秀」「組織の屋台骨」「要改善」「ミスマッチ」と名付けられた個人別の評価があり、誰がどのブロックに入り、昨年と位置が変わったのはなぜかということなどが、議論の大きな材料になっていた。
「9ブロック」はウェルチ時代から親しまれていた人事評価システムである。これまでGE社員の成長に多大な貢献をしてきたことは間違いない。いわば“人と組織の棚卸し”する機会として、個別の人事評価のほか、チームとしての長所と短所、今後強化したい点といった組織全体の話をしていた。
ただし、より公平で精緻な評価をするための資料づくりに、人事部門とラインマネージャーに大きな負荷がかかっていたことも事実だ。そこを一気に簡素化したのである。細密な資料をもとに議論するより、その人の成長を願ってもっと自由にディスカッションしたほうがより有意義だからである。実際、ピープルレビューになって、求められる資料はわずか数枚になった。リーダーは担当するチームの組織図とメンバーの顔写真を用意して、上司とフリーディスカッションするレビューになっている。
パフォーマンスは大事だが、リーダーシップバリューがもっと大事であることはGE社員に深く根づいている。そうした哲学があるため、9ブロックのテンプレートがなくてもバリューを重んじる精神は変わらない。評価を報酬に反映させる成果主義が大方針であることも変わっていない。一定のレーティングは使わなくてもやはり評価はすることになる。レーティングや点数でなく、中身で語るように変わったのである。また、成果を分配する原資も貢献した部門に渡して、マネージャーの裁量でそれを分けることになった。
最も重要なのは、その人を今後どのように育てていくか、そのためにリーダーや会社がどのようなアクションを起こすか、である。セッションCにあった、「この人はA評価かB評価か」などとレーティングする要素はすっぱりとそぎ落とされている。タレントに徹底的にフォーカスし、その人をよりよく知って成長や育成のプランを考えるという本来の目的を達成しやすい形式になった。