国鉄からJRが発足して24年。上場3社(JR東日本、JR東海、JR西日本)は安定した黒字ではあるが、JR西日本は過疎地を多く抱え、最も経営基盤が弱い。2005年の福知山線事故から6年。信頼を回復し、低収益時代に備えるために佐々木隆之社長が打ち出したのは、地域との共生と現場重視。JRらしからぬ作戦の数々で、官僚体質からの脱却を狙う。(「週刊ダイヤモンド」編集部 津本朋子)
「最初に私が自分の言葉で説明します」
昨年11月、佐々木隆之社長は鳥取県の米子支社に足を運んだ。10月末に策定した、2012年度までの中期経営計画を説明するためだ。
ところが、佐々木社長を差し置いて、最初に話し始めたのは米子支社長。新しい中期経営計画を支社の経営方針とどうすり合わせるのか。40分ほども熱弁を振るい、結局佐々木社長はほんの5分、話をしただけだった。
東大卒のエリートが集い、お役所真っ青の官僚体質が今も残るJR各社。一介の支社長が社長を差し置いて話し続けたとなれば大問題になりそうなものだが、佐々木社長は「うれしかった」と目を細めて振り返る。
これまで、中期経営計画は取締役以上が練っていたが、今回は支社長クラスも最初から参画して作った。「オレも噛んでいる」との自覚が大きい。
「地域というキーワードこそが、当社のミッション」。支社長クラス、つまり地域の担当者を計画づくりに参加させた背景には、佐々木社長のこんな思いがある。
理由は二つ。一つは05年、106人もの犠牲者を出した福知山線事故だ。安全面の問題だけでなく、事故後の対応のまずさや、09年に発覚した事故調査委員会への役員の不正接触など、企業体質そのものへの地元の不信感は今も根強い。
もう一つは、JR西日本の持つエリアの問題だ。上の図を見ればわかるように、JRの旅客6社のうち、上場にこぎ着けられた3社は黒字だが、営業利益額はJR西日本が極端に低い。JR東日本が首都圏エリア、JR東海が東海道新幹線というドル箱を持っているのに対して、JR西日本の持つ関西圏と山陽新幹線は利益は出ているものの、ドル箱とまではいかない。