国内製パン最大手の山崎製パンが、28年ぶりとなる国内でのパン工場の新設に踏み切った。その場所は、95年の阪神・淡路大震災の被災地、神戸である。業界関係者によれば、得意とする災害時の食糧支援活動で神戸市との良好な関係を築いた山崎パンは、早々に神戸に一貫工場をつくるだろうと予想されていた。しかし、こうした予想に反して、長らく新工場建設はずっと見送られていた。しかも、人口減や糖質制限ブームなど、パン業界には逆風が吹くなか、今、神戸に新工場を建設する理由などを探った。(ジャーナリスト 鈴木広行)
「空想の域」を出なかった
24番目の新工場の建設
山崎パンが神戸市西区の西神工業団地に、約200億円を投じて食パンや菓子パンなどを生産する神戸工場を建設し、関西地区での製品供給能力を向上させる。来年1月にも着工し、2018年3月の稼働を目指す計画だ(2016年11月16日発表のニュースリリースによる)。
現在、山崎パンは北海道から熊本まで全国23ヵ所にパンの一貫生産工場を抱えるほか、主にベーカリー店向けの冷凍パン生地を集中生産する専用工場を埼玉県春日部市と愛知県安城市、西神工業団地内に持っている。このうち、パンの一貫生産工場はバブル全盛期の1990年に稼働した安城工場が“最新”で、その後は長らく、既存工場の設備改修や稼働率のアップなどを通じて製品供給能力を漸増させてきた。
実際、関西地区においても大阪府下にある大阪第一工場(吹田市)と大阪第二工場(松原市)、阪南工場(羽曳野市)の3工場と京都工場(京都府宇治市)とが「生産品目を互いに調整してできるだけ生産を一つの工場に集約するなど、効率化を徹底的に追求する」(山崎パン関係者)ことで増産対応力を高めてきた。新工場の建設といった話は、詳しくは後述するが「構想の域」を出なかった。
だが、それも無理はない。山崎パンが主力とする食パンの小売価格は、ボリュームゾーンである中間価格帯の製品の場合で1斤あたり150~170円程度。スーパー向けの価格訴求製品には100円を切るものすらある。