タイヤ世界一のブリヂストン。だが新興国市場ではその地位は盤石ではない。近年は地場メーカーの台頭も目覚ましい。生産増強で足場を固め、独自の販売網と低燃費タイヤで差別化を図る戦略だ。

「これからは土俵を変えた戦いをしていく」。ブリヂストンの荒川詔四社長は中期経営計画発表の席で、こう決意表明をした。

 世界の自動車市場は金融危機を境に様変わりした。2010年の新車販売は、中国が1800万台で2年連続米国を抜きトップ。ブラジルは350万台でドイツを抜き4位に、インドも300万台でフランス、イタリア、英国を抜き去り6位に浮上した模様だ。

 タイヤの主戦場も新興国へシフト、世界のタイヤ生産量はおよそ14億本と推定される。タイヤには新車装着用と、すり減ったタイヤを交換する市販用があり、先進国では一般的にその割合は3対7といわれる。一方、新興国ではまだ半々だが、今後、保有台数が急増するにつれ、収益性の高い市販用市場は安定的な拡大が見込める。

 ただ、魅力的な市場だけに競争は激しい。低価格を武器に新たなプレーヤーも登場している。

 仏ミシュラン、米グッドイヤーを含めたビッグ3の世界シェアは01年には56.7%を占めたが、09年には44.1%に減少している(図(1))。代わりに台頭しているのが韓国のハンコックやクムホ、中国、インドなどの新興メーカーだ。

 なかでも中国で勢力を拡大しているのが台湾系の正新。「MAXXIS」(マキシス)というブランドで米国やロシアでは市販用タイヤが普及している。日本ではあまりなじみがないが、昨年、日産自動車が海外生産に切り替え価格競争力を持たせた小型車「マーチ」に標準装着された。「量販タイプのタイヤとしてなら、品質は大手メーカーと遜色ないレベル」(タイヤ関係者)と評価される。

 インドでも大手地場メーカーのMRFやJKが高い割合でスズキの新車に装着されている。

 こういった新興メーカーに対してブリヂストンも「経営のスピードも速くポテンシャルは高い。決して侮れない」(金原雄次郎・海外地域事業本部長)と実力を認める。

 じつは、世界一のタイヤメーカーとして2兆9000億円の売上高(10年度予想)を誇るブリヂストンが、存在感を示せていないのが新興国市場だ。

 たとえば中国市場。売上高を地域別の割合で見ると、日本と米州がそれぞれ30%以上あるのに対し、その他地域(新興国を含む)は18.2%。うち中国は約2割を占める模様で、全体からすると4%弱にとどまっている。市場規模を考えるとまだ開拓の余地はあるし、米国市場と比べるとその差は歴然としている(図(2))。