4月に妻を殺害した兵庫県加東市の男性は「娘たちに迷惑をかけたくなく、相談できなかった」と裁判で陳述している。

 とりわけ認知症への対応に苦しむ。その基本的なケア知識がないまま、大小便や奇声など「異常事態」に直面する。NHKの番組では、母親を殺めた40代の男性が認知症によるあまりの変容ぶりに「母の皮を被った化け物だと思った」と刑務所の中で振り返っていた。

 相談先がなかったのだろうか。介護保険制度では、要介護者であればケアマネジャーが付き、市町村が設置した地域包括支援センターが介護相談を受け付ける。ヘルパーやデイサービスの職員にも声はかけられたはずだ。被害者の大半はこうした在宅サービスを受けていたのだから。

 だが、男性介護者は仕事同様に自分だけで解決する意欲が強い。介護事業者だけでなく地域の組織や人との付き合いが薄く、一人で抱え込んでしまう。

ケアする家族たちを守る

 こうした家族介護者に、要介護者と同様の権利を確立させているのが英国である。2014年に成立したケアラー法で、ケアラーへの支援や給付を自治体に義務付けた。それまでにもケアラーへの支援権限はあったが、自治体間で温度差が出てきたため、義務付けでその解消を図った。

 ケアラーとは、病人や障害者などの要支援者を介護している家族、親族、友人、隣人などを指す。報酬を得ている介護専門職ではない。

 英国では1986年の障害者法の施行以来、度重なる法改正でケアラーの「生活の質(QOL)」を要介護者本人と同等に位置付ける試みが積み重ねられてきた。その考えが2014年のケアラー法で結実した。ケアラーを単に介護の提供者としてみるだけでなく、その普段の日常生活まで配慮することになった。

 介護者に休暇を取得できるようしたり、介護者手当として現金を支給している。要介護者への介護は社会的に認められた労働とする認識からである。

 欧州諸国や豪州で広く理解されているのが「レスパイト(休息、中休み)」という考え方だ。家族介護者が介護を続けていくためには、介護から離れる小休止の時間が必要であり、そのために自治体などが手を差し伸べる。

 これを法律で制度化しているのが英国。支援者が自宅を訪問したり、施設で本人を受け入れたりして十分なレスパイトを保障する。