──2016年にもうひとつ大きな変化が起きました。欧米のCO2排出量規制に適合すべく、ほぼすべてのモデルでエンジン排気量を小さくしてパワーを補うためにターボチャージャーを搭載したことです。

松本 いまの991型のビッグマイナーチェンジでエンジンが3リッターターボとなりましたね。ひとことでいうと、私はかなり肯定的です。ごく低回転域からアクセルペダルを踏んでいくとわかるのですがトルクの山と谷がない。ちょっと安いターボチャージャーを使っていると強く踏み込んで加速しようというとき、力が出ない領域があります。2000回転の少し上とかに。911にはそれはありません。一直線というかんじで力がもりもり出る。これを専門用語ではレスポンシブ、つまりドライバーの意思に対してクルマの反応がいいといいます。

──そう、ターボチャージャーにもクオリティがあるんですよね。

松本 エンジン回転域やアクセルペダルの踏み込み量に即応して容量が変わり最適の効率を追求する可変ジオメトリーターボをポルシェは採用しています。あのスムーズさはなかでも最高のクオリティだろうなと思わせられます。ポルシェは70年代に米国の排ガス規制をクリアしつつレースでも高い成績があげられる方策としてターボを選びました。いらい基本的にターボチャージャーのアップデート化を連綿と続けてきました。そこでつちかったノウハウが最新のダウンサイジングモデルでみごと開花していますね。

フェルディナント・ポルシェ博士(1875年-1951年)は1930年代に速度記録にも挑戦した16気筒のアウトウニオン車の設計も担当し1948年にポルシェ第1号車を製作

──ポルシェに代表される欧州の自動車メーカーはいちど採用した技術は、すぐに成果がなくてもなかなか止めませんね。

松本 マニュアル変速機をベースにツインクラッチ化して変速タイミングをうんと早めたPDK変速機は80年代にルマン24時間レースなどの耐久レースや世界ラリー選手権で走る車両に搭載されたのが最初です。その後開発が続けられていて、量産車では2008年に997型911に従来のトルコン式オートマチック変速機に代わり用意されました。いまではすっかりこれが主流です。

──他メーカーではトルコン式オートマチック変速機だと9段とかものすごく多段化できてそのぶんエンジントルクをより効率的に使えることを喧伝しています。どっちがいいのでしょう。

松本 結局トルコン式の変速機だと流体クラッチを使いますからロックアップ機構を採用するとしてもどうしてもギアが連結するまでにロスが出てしまうわけです。ポルシェはそこを指摘して、マニュアル変速機を発展させたPDKこそスポーツカーには合っているのだと主張しています。私がPDKを好きなのはマニュアル変速機と同様にエンジン回転のドラマチックな上がり下がりが味わえるからです。シフトアップしていくときに一瞬やや低めの回転に落ちたあと急激に高回転に上がっていく。あれこそマニュアル変速機の醍醐味ですよ。2ペダルでそれが堪能できるのはPDKのよさ。ただしパナメーラのようにエレガンスや快適性も大事な4ドアではトルコン式もいいかなと思わないでもないですが。

──ずっと911の話をしてきましたが、ポルシェにはケイマンとボスクターというモデルもあります。最新のモデル名は718ケイマンと718ボクスターですね。

松本 エンジンを後車軸の前に搭載したミドシップのリアルスポーツカーですね。ポルシェはスポーツカーメーカーになりたくても市場での収益性を考えて踏み切れずにきました。それをついに思い切ったのが96年の初代ボクスターです。そのあと同車がモデルチェンジをしたタイミングで2005年にクーペタイプのケイマンを発表しました。

220kW(300ps)の2リッター4気筒搭載の718ケイマン(257kWのケイマンSもある)と718ボクスター

──ポルシェのいわば入門篇ととらえているひともいるですが。

松本 911はグランツーリスモ的性格が強くてこちらはスポーツカー。別ものと考えたほうがいいのではないでしょうか。スポーツカーであってGTでないからボクスターにもケイマンにも室内に荷物置き場なんてありません。それでいいのです。すばらしい操縦性を持っています。

──マニュアル変速機の操作性も911よりはるかにいいですものね。ボクスターのほうがケイマンよりスポーティという声もあります。

松本 そのとおりだと思います。なにしろボクスターが先に発売された事実からもわかるように、ポルシェはスポーツカーの基本はオープンだと思って設計しています。ボクスターは強固なフロアパンに加え、Aピラーまわりにしっかり剛性をもたせていますから、開口部が大きいように思えてもじつはたいへんしっかりしています。しかもルーフがないのでスポーツカーに重要な重心高も低い。そのため操縦性も高い。ケイマンのほうがむしろルーフと後ろに大きく開けたハッチゲートとの剛性関係の調整が難しくて、ケイマンGT4のようなモデルではじめてハッチゲートまわりを強化することで剛性感が上がったかんじです。

──911とボクスター、2台持つひとがいるのも理由があることなんですよね。 

松本 それにSUVのマカンがあったら最強ですよ。