人工知能は想定外の問題に対処できるのか?

岡本:先ほど翻訳の話も一つお聞きしましたが、私たちのような一般人は、ディープラーニングによって他にどのような変化や影響を受けるのでしょうか。

児玉:ディープラーニングの非常に強い応用分野としては、画像認識であったり、音声の認識など、パターン情報の認識に強いということは間違いありません。自動運転なんかもその一つと言えると思います。

AIはヒトと同じように哲学することができるのか?(前編)岡本裕一朗(おかもと・ゆういちろう)
1954年、福岡に生まれる。九州大学大学院文学研究科修了。博士(文学)。現在は玉川大学文学部教授。西洋の近現代思想を専門とするが、興味関心は幅広く、領域横断的な研究をしている。 著書に『フランス現代思想史―構造主義からデリダ以後へ』(中公新書)、『思考実験―世界と哲学をつなぐ75問』(ちくま新書)、『ネオ・プラグマティズムとは何か―ポスト分析哲学の新展開』『ヘーゲルと現代思想の臨界―ポストモダンのフクロウたち』『ポストモダンの思想的根拠―9・11と管理社会』などがある。

岡本:人工知能について私が疑問に感じているのは、「例外的な、想定外の状況が起こったときにうまく対処できるのか」という点と、それから「特定分野の専門マシーンではなく、汎用性のある機械になり得るのか」というところなのですが、そのあたりはどうでしょうか。

児玉:「想定外のケースに対応できるか」と言うと、たとえば自動運転で目的地へ運行中、病人を発見した場合に、その人を乗せて病院に行くことができるか。そういうことになりますよね。

岡本:そうです、そうです。たしかに、そういうケースがあるかもしれません。

児玉:その質問に端的に答えるのは非常に難しいところですが、現段階で言えば、病人を乗せて道なき道を走って行けるかといえば、そうではないと思います。ただ私は、どうしても工学とか、実用の面から考えてしまうのですが、そういう観点からすれば、さらなる別のフレームについて十分な情報を与えれば、ドメイン・スペシフィックな問題を解くということに関しては問題なくやれるようになると思います。

岡本:自動運転といったような、ある種の限定された領域においては、そのような学びが人工知能には可能だと?

児玉:そうですね。もちろん、本当に想定されていない事態にどれだけ対応できるかと言えば、やはりまだまだ未知の部分も多いと思うんです。ただ、以前私はテスラの自動運転車に乗せてもらったことがあって、本当に普通の速度で、問題なく目的地に到着するという体験をしたんですね。

岡本:へぇ、それはすごい体験ですね。

児玉:もちろん、そのテスラの車でも、現段階で不測の事態に十分に対応できるわけではないのですが、その一方で、テスラだけでも何万台も売れていて、街中を走り回っているわけですから、その一台一台がデータを集め、それを集積することができるんです。

岡本:つまり、事故や不測の事態が起こったときのデータがどんどん集まってきて、学習していけるということですね。

児玉:そこなんです。たしかに自動運転でもいろいろな事故は起こると思うのです。ただ機械の場合は、一台が学習すると、他の車にも横展開できる。それだけ老練なドライバーが、飛躍的に増えていくということは言えると思います。
 ちょっと話は変わってしまうのですが、最近は工場で使う工作機械のトレーニングとして非常にユニークな方法が採られているんです。まず、トレーニング自体をバーチャルリアリティのなかで行うんです。それだけでも現実世界でトレーニングするより、物理的にはずいぶん速くなるのですが、工作機械をコピーして、仮想現実のなかで、違ったパターンをたとえば8台に教え込んで、8種類の体験を学習するんです。そして、それぞれに得られたデータを一台に集積するという方法が実際に行われています。パターン学習を並列的にやるという例ですが、自動運転でも同じようなパターン学習が可能です。そういう意味で、自動運転など、いわゆるドメイン・スペシフィックな問題に関しては、かなりの精度が実現すると考えられます。

岡本:すごいですね。本当に自動運転の未来はそこまで来ていますね。

児玉:自動運転は、それほど知的な振る舞いを期待するものでもありませんから。

岡本:そういう世の中が来れば、運転免許なんて必要なくなりますね。

児玉:たしかにそうですよね。それ以上に「人間が運転しているなんて危ないな」みたいな時代がやってきますね(笑)

岡本:たしかにそうだ(笑)高速道路なんて、人間が運転しない方がはるかに安全で、渋滞もなくなりますね。

児玉:するとやはり「人間と人工知能は何が違うのか」、「人工知能には何が決定的に欠けているのか」という話にやはりなってきますよね。

岡本:ええ。児玉さんがおっしゃっている「知的な振る舞い」という部分であったり、本でも書いてらっしゃる「機械は心を持ち得るのか」というところにもなってくると思います。

児玉:そこは深いというか、より哲学的な話になっていきすね。

(後編へ続く※1/16(月)公開予定です)