1986年の東大VS京大
の入試問題は?

 時代がバブルにまさに向かわんとする1986年(昭和61年)はどうだろう。この年の東大の文理共通の問題は、精神医学者・木村敏の『異常の構造』から出題された。1973年に講談社現代新書から出版された本だが、「異常」「例外的」「不安」といった単語が頻出する文章をバブル前夜に出題するというのはなんだか予言めいている。

 一方、京大はといえば、柳田國男の『昔話覚書』(1943年)からの出題である。一見、時代と関係ないように思えるが、出題文は現代の価値観と江戸時代のそれとは違っているということを述べた内容で、なかでも笑いのルーツがあざけりにあるという説が述べられた箇所だった。

 80年代はじめの漫才ブーム以降、笑いがどう大きく変わったかを考えると、実はこの京大の問題も時代の空気を見事にとらえているように思えるのだ。

 この他にも「全共闘と入試」「冷戦の終わりと入試問題」「バブル経済の崩壊を入試問題はどう受け止めたか」「1995年のあとで」「東日本大震災と国語入試問題」といった興味深い項目が並んでいる。入試問題と世相との関係はぜひ本書で確かめてもらいたい。

 それにしても国語入試問題を通してここまで時代の流れが見えるとは思わなかった。だが、国語というものが国民国家の成立に深く関わっていることを考えれば、むしろ当然なのかもしれない。

 大学入試はいま変革の波に見舞われている。グローバル化への対応を迫られているからだ。後世の人々がみたとき、さて今年の入試問題には、どんな時代が刻印されているだろう。

(HONZ 首藤淳哉)