2011年3月11日(金)午後2時46分、筆者は島根県松江市にいた。
島根県民ホールで開催されていた「次世代自動車最新動向セミナー」のなかでの筆者の講演「2015年の自動車、その現状と真相」の後半だった。
午後3時前、壇上から見て、150人ほどの観衆の後方、主催のしまね産業振興財団関係者数人が慌しく会場を出入りする姿が気になった。
講演終了後、筆者は一時閉鎖された羽田空港まで戻ることを諦め、松江市内のホテルに止まった。その夜、松江駅周辺の飲食街では、「テレビを見たか」が挨拶代わりになった。地震の揺れを実感しなかったこの地域の人たちにとって、東日本を襲った大震災はその時はまだ遠いところで起きた出来事だった。
話を震災前に戻せば、島根県民にとって、最大の関心事は産業振興である。つまり、雇用だ。同県関係者たちは、島根の産業構造についてこう漏らす。「ここは長年にわたり、公共事業に極めて大きく依存してきた。県民ひとりあたりの額は全国トップクラス。だが近年、(公共事業は)激減している。その代替として自力での産業振興が不可欠だ。雇用の創出が急務なんだ」。じつは現在、その雇用の多くは自動車産業に依存している。
同県の総人口は約71万人と、全国47都道府県のなかで46番目(47番目は鳥取県)。東京都練馬区とほぼ同じ数だ。経済産業省・工業統計調査(最新調査の平成20年版)によると、同県の事業所数は2395箇所(全国45位)、従業員数は45860人(同44位)、出荷総額は1兆876億円(同44位)だ。
主力産業は、農業、漁業など第一次産業(出雲大社、石見銀山など観光事業もある)。工業面で見ると、大手企業は日立金属と三菱農機のみ。その他は、隣接する広島県を本拠とするマツダ関連で、自動車部品のティア2、ティア3(二次下請け、三次下請け)の中小企業が多い。
そして、その頼みの自動車産業が今回の震災で大きな打撃を受けたのだ。
本稿執筆時点(3月24日時点)で明らかになっているのは、トヨタが3月14~26日まで日本国内全工場(関係会社を含む)で生産休止するということ、そして同28日から愛知県堤工場と福岡県トヨタ自動車九州で、動力系統を共有する「プリウス」「レクサスHS250h」「同CT200h」の最終組み立て作業を再開するということだ。
ホンダは4月3日まで主力の埼玉県・埼玉製作所狭山工場、三重県・鈴鹿製作所を休止。震災被害の大きかった栃木県にある栃木製作所については修理と点検が完了するというものの、生産再開時期は明らかにされていない。また同社の主力開発拠点である栃木県本田技研研究所四輪R&Dセンターとホンダエンジニアリングは、施設内の復旧に数ヶ月を要するため、両社機能の一部を狭山市、鈴鹿市、和光市の各ホンダ事業所に移管して対応するという。