「野菜高騰で景気停滞」というトンデモ議論
当初は「消費税率は段階的に引き上げていく予定で、8%への増税はそのプロセスである」という説明がされていた。しかし、人々の消費行動にここまでひどい影響が出ると、安倍首相も増税を後押しする勢力の言うことにもはや耳を傾けなかった。2014年11月、2016年6月と、2度にわたって税率10%への引き上げには「先送り」の決断が下され、アベノミクスに消費増税の議論が入り込む余地はほとんどなくなったのである。
これは単純化すれば、アベノミクスが本来の政策の軸を取り戻したということに過ぎない。だが、経済回復を邪魔するおかしな議論を沈黙させるうえでは、それなりに意味があったのかもしれない。
しかしほとんどの人は、消費増税がそこまでのマイナス影響をもたらしていたことすら知らないのではないだろうか?じつはここでもメディアのひどい歪曲報道があり、個人消費の落ち込みの原因について、多くの人は惑わされているのである。
たとえば、消費増税によって個人消費が落ち込み、景気が停滞しはじめた2014年央あたりに、「天候不順による野菜価格の高騰」が話題になったのを覚えているだろうか?
当時は台風などの異常気象やエボラ出血熱騒動があったが、天候不順で野菜がとれなければ、価格が上昇するのは当たり前である。テレビや新聞では、何人かの経済学者やジャーナリストが登場し、「野菜の供給不足により小売価格が高騰し、日本経済の成長が失速している」などという説明を繰り返していた。
まず結論から言えば、これも一種のトンデモ議論である。野菜や生鮮食品などの局所的な供給不足と、マクロ経済全体の成長の話はまったく別だからだ。海外の投資家たちとディスカッションをしていても、「日本の経済メディアは、なぜ経済動向の説明にあれほど天候の話を持ち出すのか?」と訝しむ声がしばしば聞こえてくる。
もちろん、天候や災害が経済に与える影響はゼロではない。米国でも、冬場の豪雪は経済活動をストップさせるし、夏場にはハリケーンの被害も起こる。それが単月の景気指標を動かすことはあるので、「経済指標のブレの理由」として天候が挙げられることはある。しかし、東日本大震災クラスの大きな災害でもない限り、気候や災害が趨勢的な経済成長に影響を与えることはなく、景気判断の材料にされることもまずあり得ないのだ。