カルビーは「良い会社だが儲け方が下手」、だからCEOを引き受けたPhoto by Yoshihisa Wada

1万人投票「お菓子総選挙」で上位独占でも納得がいかない

 2016年11月にテレビ朝日系列で放映された「お菓子総選挙2016」で、カルビーの商品が上位を独占した。1位に「じゃがりこサラダ」、2位に「ポテトチップス うすしお味」、4位に「ポテトチップス コンソメパンチ」、5位に「かっぱえびせん」、6位に「堅あげポテト うすしお味」が選ばれた。1万人の視聴者が投票した結果だという。

 社内では快哉の声も上がったが、私は結構冷静に見ていた。「これを単純に嬉しがっているようだとカルビーに成長はない」とさえ思った。

 確かに100位になるよりはいいだろう。しかし国内スナック菓子市場で約50%のシェアを持ち、事実、今売れているから上位にランキングされているのだろう。テレビに出たからといって販売額が圧倒的に増えるわけでもない。カルビーの商品はすでに、そんなレベルを超えたところにある。

 もし選挙結果の上位に、ここ1~2年に新発売された商品が入っていたら、私も素直に喜んだかもしれない。

 しかし、上位に選ばれた商品はいずれも、すでに昔からある商品ばかりだ。言い換えれば「新商品を断トツにするにはどうしたらよいか」という知恵が出ていないということでもある。それに気がつかず嬉しがっていても意味がない。「へそ曲がり」と言われようと、経営者はそう考えていなければならない。

 少子化で人口が減り、働いている人の可処分所得も増えていない。そんななかで会社を成長させるにはどうすればよいのか。実際、ちょっとヒットした商品でも1年ももたないケースが相次いでいる。これでは一発屋芸人のようなものではないか。

 確かに「じゃがりこ」も「ポテトチップス」も、マーケティングは考え抜かれ、品質も良い。だからといって毎年10%の成長があるかといえばそうではない。「かっぱえびせん」は、発売されてから52年が経つ。この間、売上はまったく落ちていないが急増もしていない。これは素晴らしい偉業だ。しかし同時に、さらに売上が増えるような提案ができているとは言えない。

 私は2009年6月に、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の日本法人社長、そして最高顧問を経てカルビーの会長兼CEOに転じた。以来、一貫して投資家説明会や株主通信で表明してきたのが「継続的成長と高収益体質の実現」であり、そのために「イノベーション」と「コスト・リダクション」の2つを重点課題として掲げ続けている。

 おかげでCEO就任以来、連続で増収増益を達成できているが、新商品開発におけるイノベーションでは忸怩たる思いでいる。

 カルビーは志の高い、優れた経営感覚と冷静さを備えた創業家のリードで発展してきた。1949年に松尾糧食工業が広島に設立され、「カルビーキャラメル」が人気商品となる。そして55年には社名を「カルビー製菓」に改称する。カルビーとは、カルシウムの「カル」と、ビタミンB1の「ビー」の造語である。

 創業者の松尾孝は、「原爆で荒廃した広島の人々に豊かな栄養源を提供したい」と創業したという。そして以後、現在の松尾雅彦相談役まで、3代創業家から社長を出し、2005年に初めて社外の人物に社長を引き継いだ。創業家がなぜ社外の人材に社長を引き継ぎ、さらに外資系企業のトップを務めた私のような者をCEOに迎えたのか。