差し止めを巡って政権側と連邦裁判所が対峙している、トランプ大統領の入国禁止令。そもそも大統領令をやめさせることはできるのか。ニュースだけではわからない法の仕組みを解説する

トランプの大統領令は防げるか?
わかりづらい制度の仕組みを解説

 トランプ大統領が就任以来、矢継ぎ早に乱発している大統領令が、世界の困惑を招いている。医療保険制度改革・オバマケアの見直し、メキシコ国境の壁建設、そして一番の困惑の元は、1月27日に発効し、全米の国際空港を大混乱に陥れた「特定7ヵ国の国民の米国への入国を90日間禁止する」大統領令だ。

 この大統領令に対しては、ワシントン州シアトルの連邦裁判所が大統領令の一時的差し止めを全国的に命令した。これによって、全米の空港で対象国からの入国者の受け入れが再開され、国務省は「ビザ取り消しを撤回する」ことを発表した。

 この入国禁止に関わる一連の事件は、アメリカの政治ルールがわからない人には「何が起きているのか理解が難しい」事件だったと思う。大統領令とは何か。それが暴走だった場合は誰が止めることができるのか。そして今後の日本への影響と対策とは――。日々のニュースを読み解くためのサポートとして、簡単に大統領令をめぐる基本知識をまとめてみよう。

 そもそもアメリカ大統領令とは何なのか。これは行政の長である大統領が行政機関に対して出す命令だ。お役所内の業務命令のようなもので、民間企業には直接の効力が及ばない命令なのだが、各行政機関は即座にこの命令に従う必要がある。

 問題はここにある。大統領令は執行権の行使なので、議会の承認が要らない一方で、行政機関はそれを実行に移すため、結局国民や企業、関係各国に影響が及ぶ。そのため大統領令は、実質的に法律と同等の効力を持つことになる。アメリカ大統領にとって強力な権限を行使する手段なのだ。

 大統領令の発動自体はそれほど珍しいことではない。しかし、微妙な問題を扱う大統領令は問題を引き起こす。よい例は、ブッシュ大統領がテロとの戦争の中で発した「テロリストに認定された人のアメリカ国内資産を凍結する」大統領令だ。9.11テロ後の空気もあり国内は賛成だったが、それでも憲法で認められた人権や財産権を侵害する可能性が問題視された。