揺れる世界
首相訪米で異例の厚遇の思惑

 トランプ大統領が就任してからの一ヵ月、世界は揺れた。メキシコとの国境の壁建設の大統領令やTPPからの離脱表明、そしてイスラム7ヵ国からの入国の禁止の大統領令。イスラム諸国からの入国禁止については連邦裁判所の判決により効力が停止されるに至った。

 そのトランプ大統領を最初に訪問したのは、英国のメイ首相。メイ首相は訪米から帰国後、なぜトランプ大統領の訪英を招請したのか、と激しい批判にさらされる。トランプ大統領は豪州のターンブル首相の電話会談を途中で打ち切ったと伝えられる。

 そして安倍首相の訪米。安倍首相は別荘でのゴルフや何度にもわたる食事などといった異例の厚遇を受けた。首脳会談についても日米同盟関係の重要性を再確認し、トランプ大統領は尖閣諸島を含め日本への防衛義務は確固としていると明言し、通商関係についても事前の批判とはうって変わり、日本を困らせるような言動はなかった。トランプ大統領は四面楚歌的な雰囲気の中で、安倍首相との緊密な関係を演出することが好ましいと考えたのであろう。

 安倍首相にとってもトランプ大統領の思惑に乗って懐に飛び込むことが日本の利益に資すると考えたのだろう。日米同盟関係を軸に米国の東アジアにおける関与を確保するのは日本の国益のみならず地域の利益であり、日本にとって今回の安倍首相の訪米は目的を達成したと評価されると思われる。しかしこれからの課題も多く、緻密にトランプ大統領の米国との向き合い方を考えるべきなのだろう。

 筆者はこの間、英国の王立国際問題研究所(チャタムハウス)並びにシンガポールのS.ラジャラトナム国際関係学院(RSIS)の招きに応じ、ロンドン及びシンガポールで「東アジアの地政学展望と日本の対応」について講演を行った。講演後に色々な質問を受け、また、各地で知的指導者と意見交換を行ったが、やはりトランプ大統領の米国とどう向き合って行くのか、日本がどう向き合おうとしているのかは大きな関心事であった。