インドは世界一の「牛肉輸出国」へ

 インドで生産された牛肉は国内でも消費されますが、多くを輸出に回します。特に近年急増していて、2012年には水牛も含めると、なんと牛肉の輸出量は世界最大となりました。年間の輸出量は168万トン、ブラジル(139万トン)、オーストラリア(138万トン)を大きく上回る数値です。

 皆さんが持つ「インド人は牛肉を食べない!」というイメージは、一面的なものだったということです。

 ヒンドゥー教徒は一般的に菜食主義者が多いので、牛肉は当然のこと、豚肉や鶏肉も食べない人たちがいます。しかし、一部の人たちは鶏肉を食べます。

 近年の鶏肉の生産、普及の拡大はピンクの革命と呼ばれています。これは近年の経済成長による所得水準の向上が背景にあるといわれています。

 世界的ファストフードチェーンのマクドナルドのとり組みはユニークです。インドに構える店舗では「マックアルーティッキ(ジャガイモのコロッケが入ったバーガー)」や「チキンマハラジャマック(鶏肉のパテが入ったバーガー)」といった、ヒンドゥー教の禁忌に配慮したメニューがあるそうです。

「インドは、ヒンドゥー教徒だけのものではない」

 2015年9月28日、インドの首都ニューデリーにてイスラム教徒の男性が集団暴行を受け殺害されるという事件が起きました。

 この事件の前に、ニューデリーから35キロ離れたダドリという村で仔牛が行方不明になる事件が起こります。これをイスラム教徒の男性の仕業と思ったヒンドゥー教徒たちが、彼の家に向かい、集団暴行を加えたのです。その数約100人。

 しかし実際は、彼が盗んだわけではありませんし、彼の家の冷蔵庫に牛肉が入っていたわけでもありません。

 2015年3月にはインド西部のマハラシュトラ州で、牛の食肉処理、牛肉の所持を禁止する法律が施行されました。穏和なヒンドゥー教徒たちですが、一部の過激化した人たちの愚行で、こういった「牛肉」を巡る宗教間の争いが表面化してしまうのは残念なことです。

 かつてマハトマ・ガンディーは言いました。
「インドは、ヒンドゥー教徒のためだけにあるのではない」

 1つの国の中に「違う価値観」を持った人々が同居することの難しさを、改めて思い知らされた事件でした。