なお、財産管理等委任契約は私的な委任契約ですので、有効に締結されるためには委任者本人に十分な判断能力が要求されます。自己の財産の内容が把握できること、管理を信頼のおける人にやってもらうことを理解できること、受任者からの管理報告書を読んで理解できることが必要です。作成においては、弁護士のアドバイスを受けることをお勧めします。

終末期のトラブルを予防する「尊厳死宣言書」

 尊厳死とは、現時点の医学レベルで回復の見込みがない重篤な疾病のため末期状態にある人につき、生命維持装置等による延命のためだけの治療を中止し、人間としての尊厳のもと、生に終止符を打つことを言います。

「尊厳死宣言書」とは、本人が自らの考えで尊厳死を望み、延命措置を差し控え、中止してもらいたいという考えを書類で残すものです。ちなみに尊厳死という概念は、もともとアメリカで発展したものであり、尊厳死宣言書のことを英語で、リビング・ウィル(Living Will)と言います。

 尊厳死宣言書は、一般には形式は自由で誰にでも作成できるものですが、尊厳死の普及を目的とする日本尊厳死協会では、独自形式の尊厳死宣言書を用意し、会員が作成・捺印した尊厳死宣言書を登録・保管するサービスをしています。

 一方、本人が間違いなく書いた書類であることを公的に認めさせるには、遺言書や任意後見契約書と同様に、公正証書で作成する選択肢もあります。

なぜ、尊厳死宣言書が必要なのか?

 現代の医学は患者が生きている限り、最後まで治療を施すという考え方のもとに、少しでも長く生を保つための延命治療の技術を進歩させてきました。しかし、結果として、延命治療が患者を苦しめ、安らかな死を迎えることを阻害する場合があるのも事実です。

 近年、個人の自己決定権を尊重する考え方がいろいろな方面で正当と評価されるようになってきました。医学の分野においても、治療方針や手術のリスクなどについて十分な情報を提供し、これに基づく患者の選択を重視する考え方が主流となっています。

 患者本人としても、少しでも長生きしたいというのが、人間としての本能だと思いますが、もし自分が回復の見込みがない末期状態に陥ったときには、機械によって単に生かされているような状況を回避したい、また、過剰な延命治療による家族への経済的・精神的負担や公的医療保険などに与える社会的な損失を避けたい、という考えを持つ人が増えてきました。