東日本大震災を契機として、有事のリーダーシップのあり方をめぐる議論が盛んになっている。しかし、非常事態に直面したリーダーに求められる要件は、平時に比べてそれほど違うものなのだろうか。米国の大手金融機関、アメリカン・エキスプレスの日本社長は、本質的には不変であると語る。
(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集長、麻生祐司)

ロバート・サイデル(Robert Siedell)
ハーバード大学ビジネススクール卒業。1984年、アメリカン・エキスプレス(米国)入社。88年に来日し、カード事業部門業務担当副社長に就任。タイ代表を93年~2000年務めた後に、再来日し、01年より現職。Photo by Toshiaki Usami

――震災時はどこに?

 出張先のニューヨークにいた。現地時間の午前3時ごろ電話で知らされ、飛び起きて、すぐさま対応を指示した。

――どのように対応したのか。

 当社には、自然災害など非常事態が発生した際に、状況の把握や対応に当たるクライシスレスポンス(危機対応)チームがある。情報システムからセキュリティ、オペレーションなどさまざまな部署の社員で構成され、有事の際には、世界の主要拠点で編成されることになっている。今回もそのルールに則って、危機対応チームを編成し、事態に対応した。

 最初に心配したのは、社長として当然、全社員の安否だった。われわれは、自然災害のように大きな潜在リスクがある非常事態においては、社員の安全確保にプライオリティを置く。東北エリアにいた社員やその家族の安全を確認できた後は、顧客対応に全力を注いだ。

――今回のような非常事態に遭遇したことはあるか。

 当社は多国籍企業なので、世界の各拠点で過去にも深刻な災害に何度か直面している。2004年のスマトラ沖地震もそうだ。こうした事態に際しての対応の仕方については、経験があることから、比較的よく理解している会社だと思う。実際、今回もアジアの他の拠点は日本オフィスを迅速にサポートしてくれた。日本が震災対応という喫緊の課題に経営資源を集中できるようにと、他の課題を引き受けてくれたのだ。

 また、個人的にも、前赴任先のタイでスマトラ沖地震を経験している。2004年当時、私はすでにタイオフィスから日本オフィスに転じていたが、そのときは偶然タイにいた。そうした経験もあって、自然災害の怖さは身にしみて分かっているし、危機の際のリーダーシップについても、マニュアル以上のものを自分自身で感じ取っているつもりだ。