非認知スキルが低い人は、犯罪傾向が高い
佐々木 いいですか?自分の話をしちゃっても。
中野 どうぞどうぞ。
佐々木 人を好きになると、初めは感情が盛り上がって、席替えのとき隣の席になりたいとか、フォークダンスで手をつなぎたいとか、ラブレターに思いのたけを書いて伝えたいとか、そういう直感的なことを思い描きがちなんですが、それだけでは相手が振り向いてくれるはずはなくて。どうすれば自分のことを気に入ってもらえるだろうという次のステップに進んだときに、1回抑制し、立ち止まって考えられれば、「そのまま好きと言うだけじゃだめなんだ」と気づくんですよね。例えば、相手がドリカムが好きだったら、自分もむちゃくちゃドリカムを聴いて、ドリカムを熱く語れるようにするとか。
中野 共通の趣味を作って、「気づいたら仲間」作戦ですね。
佐々木 あとは、それとなく気遣いをしているようにふるまったりね。同じバイトの日に、雨が降りそうだという天気予報を見て、傘を「たまたま」2本もっていくとか。本当は全然たまたまじゃなくて、超狙っているのに(笑)。
中野 恋愛に特化した『伝え方が9割』もできますね(笑)。伝え方を考えて、受け入れられたときの嬉しさは大きいですよね。学生時代、不自然なふるまいをずっと続けてきた私ですけれど、20歳を超えて「受容される喜び」を感じることができました。ずいぶん遅いんでしょうけれど。
佐々木 マシュマロ実験の話に近いかもしれないですね。初めは、思うまま食べてしまったけれど、我慢して、何とか手を考えれば、得られるものは大きくなるということを、人は考え始める。でも、大人になれば、たいていの人は我慢して待てると思うんですよ。千円札があって、15分待てば2千円になると言われたら、多くの人は待てる。
中野 そうですよね。15分の感覚もわかっているから、どんなふうに待てばいいのかわかりますものね。大人になれば、ちゃんと。
佐々木 人間が生きていく中で学びの場があり、学習していくということなんですね。
中野 我慢できずに目の前にあるマシュマロを食べてしまうのはかわいいですが、目の前にある「売り物の」マシュマロを食べてしまうのは万引きであり、犯罪です。普通は止められるんだけれども、止められない人も中にはいます。そういう、「ときに社会規範に従えない状態になる」のが、「非認知スキルの低さ」です。マシュマロ実験で、大人が去ってから1分以内にブザーを押してしまう子がいるのですが、そういう子は犯罪率が高いというデータがあります。
佐々木 そうなんですか!
中野 自分の行動を抑制する力の大きさが、生き方にかなりの影響を及ぼすということを知っていただけると、より『まんがでわかる~』を面白く読めるかもしれませんね。主人公の舞ちゃんは、自分が思ったことをそのまま言葉にしがちな、非認知スキルが低い女性でしたが、人生の先輩のようなオネエに教えられて、徐々に抑える力、考える力がついて、最終的には非認知スキルが非常に高くなっていく。つまり、学習することで非認知スキルは高くできるようという成長譚でもある。とても希望が持てるストーリーだと思います。
佐々木 そう思ってもらいたいですね。…僕は、人間関係がうまくいっていない小学生時代、何とかしたいと思ってもどうしていいのかわからなかったんです。中野さんは「脳」に行きましたが、僕はどこにも行くことができず、ただただ「人生って辛い」と思っていました。
中野 そうか、佐々木さんも同じように思っていたんだ。子どもの頃に会いたかったですね。すごく仲良くなっていたかも。
佐々木 仲良くなってたと思います!ただ、私は大人になってもそうで…。『まんがでわかる~』の中で、彼にデートしてほしいと思ったときに、自分の気持ちをそのまま口にして「デートして!」と伝えると断られるかもしれないけれど、自分の気持ちを抑え、彼の気持ちを考えて「驚くほどおいしいラーメン食べに行かない?」と伝えて成功するという場面があるのですが、幼き頃の僕、大学時代の僕、新入社員時代の僕はこういうことを知らなかったので、ただただ悩むばかりでした。
「相手のことを思いやる」脳の領域は、20代前半では未完成
中野 若い時はそういうものかもしれないですけどね。ちなみに、「デートしてほしい」と思う脳の領域と、「相手のことを考える」という脳の領域は、全然別なんですよ。「会いたい、デートしたい」と思うのは、もっとプリミティブな、脳の奥のほう…具体的には辺縁系と一部前頭葉が行うんですが、「相手のことを思いやる」のは共感領域をつかさどる眼窩前頭皮質というところが行っています。後者は20代前半だと、まだ出来上がっていないので、使えなくて当然ともいえます。
佐々木 そうなんですか。
中野 最近では、30歳ぐらいで完成すると言われています。20代の新入社員はもちろん、学生さんにはできなくて当然なんです。できる子は本当に優秀か、そのスキルを身につけなければならないほどサイコパシー(精神病質)が高いかのどちらか。
佐々木 できなくても、こういう方法があるんだよということを早めに知ってもらえるだけでも、いいかもしれませんね。
中野 そうですね。脳が育っているときに知るのと、出来上がってから知るのとでは全然違う。前者のほうが、より効率的に身に付きます。自分が小学生時代に読みたかったと思うのと同じく、若い人にこそ読んでほしいと思っています。
佐々木 ありがとうございます!
(続く)