コミュニケーションに悩んだから、
伝え方の法則がつかめるようになった

中野 『伝え方が9割』には、誰もができることなのにやっていないことが書かれています。非認知スキルを身につけてこられなかった人に、つける方法をアドバイスしている点が素晴らしいですよね。

佐々木 僕自身、以前はコミュニケーション下手で…。大学時代は人とコミュニケーションを取るのがとにかく苦手で、当時の自分に向けてこの本を書いたという側面もあるんです。

脳科学的にも『伝え方が9割』?!<br />中野信子×佐々木圭一(前編)中野 変な子でしょ(笑)。普通の子は心理学の本とかを買うと思うんですけれどね。私は物質に原因があると思ったんでしょうね。あと、当時考えたのは、大学に残れば、人間関係を気にせずに仕事をして行けるかもと考えました。

中野 今はとてもそんなふうには見えないですけれどね。

佐々木 コピーライターとして、20年間言葉について研究し続けた結果、自分で一定の法則を発見できたので、その内容をまとめました。僕は理系の出身で、コミュニケーションって本能や、その人が持っている才能によるものだと思っていたのですが…。

中野 いますよね、そういう天才も。

佐々木 います、います。でも僕にはできなかったから、試行錯誤を続けて、結果、この本が生まれた。

中野 すごいですね!

佐々木 いえいえ…。でもこのまんが版は、小学生まではさすがに想定しませんでしたが、高校生や大学生も読みやすいと感じてもらえれば、とは思っていました。

中野 『まんがでわかる~』自体は、ビジネスシーンに特化して、新人さんが壁にぶつかりそうな部分にフォーカスされていますが、小学生や中学生向けに、例えば「どうして僕はいつもいじられるんだろう」と悩んでいる子どもに「こういうふうに言うといいよ」とか、「うまく友達が作れない」という子どもに「こう伝えるといいよ」と書いてあると、少し救いになるかしら、と思ったりしました。

佐々木 そうですね。子どもの頃も、社会人になってからも、多くの悩みは人間関係なんですよね。「仕事がなかなかうまくいかない」という悩みも、突き詰めていけばコミュニケーションに問題があったりする。僕も、コミュニケーションが上手にできれば、もっと会社員時代、仕事ができたんじゃないか…と今でも思うんです。

中野 いや、十分できていますけどね(笑)。ただ、コミュニケーションは誰しも持っている共通の悩みではありますね。私自身も、中学時代に脳の本を買いに行くぐらいに悩んでいましたからね。

佐々木 そこで、脳の本を買おうと思うのがすごいです!

中野 変な子でしょ(笑)。普通の子は心理学の本とかを買うと思うんですけれどね。私は物質に原因があると思ったんでしょうね。あと、当時考えたのは、大学に残れば、人間関係を気にせずに仕事をして行けるかもと考えました。

佐々木 研究に没頭できる環境ならば、人と煩わしいコミュニケーションを取らなくて済むと。

中野 そう。コミュニケーションが最小限で済むのが大学だと思ったんです。でも、大学に入ってみたらまったくそんなことはない。研究室に入ったら、そこにも人間関係があって、上手くやっていかなければ研究が進まないということにショックを受けました。

円滑なコミュニケーションを取るために、周りを観察し、模倣した

佐々木 中野先生から、人間関係で悩んでいらっしゃるという印象は受けないですけれどね…。

中野 だとしたら、大成功ですね。でも、実際は非常に苦労しています。

佐々木 今もですか?

中野 そうですね。ある程度の距離を取る必要性を、まず学びました。こういう態度をとると、人は感じよく見てくれるんだなというのは、自分なりに見出せたかもしれません。『伝え方が9割』みたいに、法則別に分けて、こんなメソッドでやればいいと分類できるほどに整理はできていませんが、こういうシチュエーションが来たら、こうしようというのはつかめていて、まるで人工知能ならぬ「人工無能」のように対応しています。でも、それで割とうまくいくので、面白いですよ。

佐々木 「距離を取る」とおっしゃいましたが、具体的にはどういうことなんですか?

中野 子どもの頃って、相手に感情があることを予測しないですよね?

佐々木 そうですね。思ったままを口に出してしまいますね。

中野 私はある程度成長した後も、その傾向が際立っていたと思います。相手が人であるということをあまり予測せずに話すので、当然ネガティブなフィードバックが来ますよね。でも、何が悪いのかがよくわからない。そうすると、「私がしゃべっていること自体がおかしいのではないか」ということになるんです。それを解消するためには、みんなの振る舞いを真似すればいい、周りを観察して、その模倣をしようと考えたわけです。

 そうすると、「感情の真似」になるんですね。たとえば、人を好きになること、友人関係を作るということをミミック(擬態)して…女子というのは面白いことに、みんな好きな人のことをあれこれ言うわけですよ。だから、私も「好きな人」というのを設定しなければならないと考えまして。

佐々木 面白いですね、それ。まさに人工知能!

中野 設定した後は、周りを参考に、「その人のことで頭をいっぱいにしなければ」と考える。そうすると、それをやることに一生懸命になって、過剰になるんですね(笑)。

佐々木 好きな人を作らなくちゃいけないと思って、作った。好きであるためにどうすればいいか学んで、手紙を書いたり電話したり、一緒に帰ろうとするんだけど、実は本音で言えば「そこまで好きではない」という。そういうことですか?

中野 その通りです(笑)。「その人のことで頭をいっぱいにしなくちゃ!」と無理矢理思いを募らせていくんですけれど、一方では「こんな異常な状態って、本当にみんな気持ちいいと思っているんだろうか」と冷静に思っていたりする。

佐々木 なるほど~。面白いなあ。

中野 そんな時代がしばらくあったのですが、しばらく続ける中で、「みんなの真似をして、みんなを理解しようと思ってやったけれど、これもまた普通な状態ではない」ということに気づいたんです。