「次世代エコカーの普及に結び付き、トヨタグループの住宅事業も強化できる。トヨタにとって“一石二鳥”のめでたい話だ」というのは、あるトヨタ自動車幹部。
そのめでたい話とは、子会社のトヨタホームと、トヨタホームが27.8%出資するミサワホームの提携強化策。2012年からトヨタホームとミサワが、エリアを相互補完して、次世代エコカー向けの充電器や専用電源の販売や設置工事に乗り出すのだ。
トヨタホームは営業エリアの27都府県で、販売・工事を実施。北海道や日本海側、四国、九州南部などトヨタホームが営業拠点を持たないエリアでは、全国展開しているミサワが販売・工事を請け負う。充電設備に関する技術的な開発なども共同で行う計画だ。12年といえば、トヨタがプリウスのプラグインハイブリッド車(PHV)を量販する年。
PHVは、街中など短距離では電気自動車のようにモーターで走る一方、長距離ではエンジン走行し、燃費や二酸化炭素の排出量を大幅削減できる。現時点では、長距離走行が困難な電気自動車に比べ、実用面でのメリットが大きく、トヨタは次世代エコカーの主役として期待している。
一般家庭にPHVが普及するには、電気自動車と同様に、充電設備の普及が不可欠だ。
だが、トヨタの販売店が、プリウスPHVを購入した顧客に、トヨタホームかミサワを紹介し、充電設備を設置してもらえば、この問題は一気に解消する。
トヨタホーム、ミサワのメリットも大きい。販売・工事費用は、10万~20万円程度を見込むが、PHVや電気自動車が普及すれば、両社にとって大きなビジネスになる。加えて、この受注をきっかけに、将来的にリフォームや建て替え需要などを取り込めるメリットもある。
充電設備は現在発売中の日産自動車の「リーフ」や三菱自動車の「アイミーブ」など、他社の電気自動車にも対応している。トヨタホームとミサワは、知名度を生かして、トヨタ車以外のユーザーにも売り込むという。
トヨタが経営再建中のミサワ支援のために出資したのは05年、当初は周辺ビジネスにすぎない住宅事業の強化には、疑問符も付いた。
だが住宅事業は、“一代一事業”という豊田家の家訓により、現名誉会長の豊田章一郎氏が発案しただけに、トヨタの思い入れは強い。これまでトヨタホームとミサワは、建築資材の共同調達や、共同分譲、技術開発、商品開発などを実施。提携を積極的に進め、収益力の向上につなげてきた。
今回は自動車事業との相乗効果、住宅事業の成長が期待できる。ミサワへの出資以降、トヨタの自動車事業にとっても、初の“大きな果実”となりそうである。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)