5月初旬、震災復興のために総額4兆円超の第一次補正予算が成立した。今後の焦点は夏期に向けた第二次補正予算となるが、復興財源を確保する方法として、復興国債の発行や税金の引き上げなど、様々な案が浮上している。財源確保に道筋をつけることは確かに重要だが、それだけではなく、どうやって理想的な復興プランをつくるかも重要だ。この2つの議論は表裏一体の関係にある。政府税制調査会専門家委員会委員長を勤める神野直彦・東京大学名誉教授は、被災地が主体となって自らの復興をデザインする「分権的復興」こそが理想の姿であり、それを実現するために「分かち合いの心」が必要だと説く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 原英次郎、小尾拓也)

なぜ増税ばかりが議論されるのか?
財源議論よりも復興プランを優先すべき

じんの・なおひこ/1946年生まれ。埼玉県出身。東京大学経済学部卒。日産自動車勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。その後、東大経済学部教授、東大大学院経済学研究科長・経済学部長、関西学院大学人間福祉学部社会起業学科教授などを歴任。専門は財政学、地方財政論。現在、地方財政審議会会長、政府税制調査会専門家委員会委員長。

――5月初旬、震災復興のために総額4兆円超の第一次補正予算が成立した。今後の焦点は夏期に向けた第二次補正予算となるが、その財源を確保するための方法として、復興国債の発行や税金の引き上げなど、様々な案が議論されている。震災前から税制改革を議論してきた政府税制調査会専門家委員会は、現在どのようなスケジュールで動いているか。

 税制調査会専門家委員会では、これまで任期の切れる今年の年末を目指して、抜本的な税制改革案を議論してきた。そして、税と社会保障の一体改革もあり、「6月中に案をまとめて欲しい」と要請されてきた。しかし、大震災という緊急事態を受け、現在税調懇談会は開催されているものの、委員会は状況を見守っているところだ。

――財源確保に道筋をつけることは重要だが、それだけではなく、どうやって効率的な復興を行なうかも重要だ。この2つの議論は表裏一体の関係にある。

 民間の経済主体は、企業も家計も「入りを量って出を制する」ものだ。この場合、彼らの収入を決めるのは市場だ。それに対して国は、「出を量って入りを制する」ものだ。市場メカニズムでは供給できない必要なサービスを行なうために、財源をどうやって国民に負担してもらうのがより公平で効率的かを考えなければならない。そのため、財政には、経済・社会情勢に対応した景気調整機能や再分配機能があると言われている。

 しかるに現状を見ると、「具体的にどんな復興をやるのか」がはっきり決まっていないまま、増税をはじめとする財源負担の議論が先行している。この状況は、財政の原則から言ってもおかしい。