万が一、会社がつぶれても
社員に退職金を払える

 もうひとつ、確定拠出年金にしておいたほうが社員にとっていいことがひとつあります。それは社長にはちょっと厳しい言い方になりますが、「会社がつぶれたとき、退職金を払ってあげられるか」という点です。もしものときに備え、社長としては知っておくべきポイントのひとつです。

 会社がつぶれる、ということを望む社長はいませんが、どんな会社にも起こりえます。そうなったとき、社員にできる限りのことをしてやりたい、と思うのは社長の本心でしょう。

 しかし、退職金制度の場合、満額払ってあげることはほとんど不可能です。法令上は退職金は労働債権として優位に立ちますが、資金繰りにもがいて万策尽きた会社には、そもそものキャッシュがないからです。

 企業年金、中退共等の共済制度、確定拠出年金は積立金を会社と分離して管理するため、倒産時にはその積立金を社員に分配してあげることができます。その代わり、これらの外部積立制度を活用している限り、会社の資金繰りのために積立金を取り崩すことは許されません。

 特に確定拠出年金制度は、個人資産として在職中から取り扱われていますから、スムーズに社員に引き渡してあげることができます(社員が転職先の企業型確定拠出年金か、個人型確定拠出年金(iDeCo)に引き継ぐ手続きを行う)。

 もしかしたら、会社がつぶれてしまったとき、確定拠出年金は最後に社員に渡してあげられる貴重な財産となるかもしれません。これらが、中小企業ほど確定拠出年金を検討すべきと筆者が考える理由です。

確定拠出年金導入の
8割は中小企業!

 それでも「確定拠出年金なんて、上場企業の使う制度でしょ?」という意見が返ってきます。確かに経団連の調査によれば、回答企業の54%が確定拠出年金を導入しているとしています(「2014年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」)

 しかし、企業規模ベースでいえば、確定拠出年金導入企業の80%は中小企業(従業員数300名未満)です(厚生労働省ホームページによる。現在は企業規模別割合は公表していない)。

 もちろん、日本の企業の99%が中小企業ですから、利用率は実態より低いといえますが、それでも意外に思われる高い数字ではないでしょうか。

「ウチに確定拠出年金はありえない」と決めつけることは、制度改革の自由度を失うもったいない思い込みだと思います。一度、固定観念は取り払って、確定拠出年金を検討の俎上に載せてみてはどうでしょうか。まじめに向き合ってみると、意外と使い道のある制度かもしれません。

 次週は現場だけが知っている、「法律解説書には絶対に載っていない確定拠出年金4つの種類」を紹介したいと思います。

山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ)
1995年株式会社企業年金研究所入社後、FP総研を経て独立。ファイナンシャル・プランナー(2級FP技能士、AFP)、1級DCプランナー(企業年金総合プランナー)、消費生活アドバイザー。
若いうちから老後に備える重要性を訴え、投資教育、金銭教育、企業年金知識、公的年金知識の啓発について執筆・講演を中心に活動を行っている。
企業年コンサルタントとしても活動しており、特に確定拠出年金については、業界団体である企業年金連合会で首席調査役として企業担当者の研修担当や企業向けガイドブックの執筆を行い、さらに厚生労働省社会保障審議会確定拠出年金の運用に関する専門委員会委員も務める(2017年2月から)。「人事労務」等専門記事、マネー誌でも執筆ほか、日経新聞電子版で『人生を変えるマネーハック』を連載中。
著者ウェブ  http://financialwisdom.jp  twitter: @yam_syun