一人で完結できる仕事はない

「一人だけで完結する仕事」など、この世の中に存在するのだろうか。仮にあったとしても、一人だけで完結できた仕事によるアウトプットは、十分に質の高いものにはならないのではないか。

 この連載(「イノベーション的発想を磨く」)記事も私一人で完結しているのではない。草稿の段階で、情報工場の編集長から厳しいアドバイスをもらい、時に心が折れそうになりながらも、何度も書き直して完成させている。ダイヤモンド・オンラインの編集者のチェックも入る。

 鬼編集長からなかなかOKをもらえない時など、私には文章を書く能力が根本的に欠けているのではないかと落ち込んだりもする。だが、本書『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』を読んで少し心が落ち着いた。どうやら、たとえ天才と呼ばれる存在であっても、一人では創造性を発揮しきれないケースが多いようなのだ。

 上司や同僚の厳しい指摘や意見のおかげで、結果的に良い仕事ができた経験がある読者も多いだろう。より良い仕事をするには、たとえネガティブな感情にとらわれることがあっても、自分以外の誰かの意見やアイデアを取り入れるべきではないか。

『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』
ジョシュア・ウルフ・シェンク著  矢羽野 薫 訳
英治出版
384p 2300円(税別)

 本書の著者、ジョシュア・ウルフ・シェンク氏は、精神衛生、歴史、現代政治・文化、創造性をテーマに講演・執筆活動を行うエッセイスト、作家。キュレーターでもある。ニューヨーク・タイムズ、ニューヨーカーなどに寄稿。また、一般の人々が体験談を語るイベント「モス」に立ち上げから関わり、現在は心理学から「創造性」について研究する議論の場「アーツ・イン・マインド」を主宰している。

 シェンク氏は本書で、歴史に残る芸術や文化、偉大な発見や発明を生み出してきた創造性について語っている。それは「偉人」「孤高の天才」などと呼ばれる“一人の”人物の頭の中だけにあるものではないというのだ。

 むしろ創造性は、親密な人間関係や社会のネットワークの中でのさまざまな複雑な出来事が絡み合うことで育まれると説く。とくに「二人」の関係が重要だという。