ヨーロッパは文法だらけの世界

 本当の文法とは、「ヨーロッパ」のことです。
「ヨーロッパ Europe」は、20世紀までは、「教養」と同意でもありました。
 古代ギリシャ文明を擁するヨーロッパ大陸は、言語の宝庫でもあります。
 ラテン語、フランス語、ドイツ語等、どれをとっても、そのきめ細かい文法に驚かされます。

 ドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーの『形而上学入門』(平凡社)でも、文法や言語は、人間存在に関わる重要な問題として取り上げられています。

 つまり、ヨーロッパは文法だらけ、文法の世界なのです。

 その小難しい文法の数々から生み出されたのが、ヨーロッパの哲学・文学・劇作・詩などの文化資本であり教養であり、大人が手本とする言葉のマナーでもあったわけです。

 ですが、悲しいかな、その栄光と繁栄も20世紀終わりまででした。
 王侯貴族やハイソな人々の手から、いまでは死語のインテリ(インテリゲンチャ)にバトンタッチされたあたりで、次の担い手を失い、ヨーロッパ(教養)は徐々に光を失ってしまいました(そしていま、そんなわけで大学の文系学部のあり方が問われています)。

 特に、中学校で習うレベルの文法は、文法ではありません。
 習うより慣れろ、ですみます。例文を丸暗記しましょう。
 中学校の教科書なら薄くてやさしいので、3年分を1ヵ月で暗記できるはずです。
 そのほうが、いわゆる不定詞、関係代名詞などと順番に習っていくやり方よりよほど効率がよく英語が身につきます。

 たとえば、go(行く)は「不規則動詞」と文法で習います。
 は? go, went, gone、これのどこが不規則なんですか!
 goは、どれだけがんばって活用させても、go, went, gone, going、この4パターンしかないんですよ。
 では、同じ(行く)をフランス語「aller」で見てみましょう。

 aller(行く): vais, vas, va, allons, allez, vont, allais, allait, allions, allies, allaient, allai, allas, alla, allâmes, allâtes, allèrent……

 だいぶ疲れてきましたが、これでもまだ活用形の半分も書いていないのです。
 どうですか? 「行く」という動詞がこれだけ活用するのですから、当然説明が必要です。文法とは、そのためのものです。

 文法と呼ぶにはあまりにもやさしすぎるものを「文法」と呼んで、わざわざ英語学習をややこしくするのは、このあたりでやめましょう。