大統領選挙中から科学を蔑ろにし、目の敵にしてきたトランプ米大統領と科学者たちとの間で、いよいよ対立が激化している。これまで世界の科学を牽引してきた米国は、その地位を失うのか Photo by Keiko Hitomi

 案の定である。科学に何の恨み辛みがあるのか。大統領選挙中から科学を蔑ろにし、目の敵にして「地球温暖化は中国のでっち上げ」などと吹聴してきたトランプ米大統領と科学者たちとの間で、いよいよ対立が激化し、亀裂を深めている。

 トランプ政権は反科学的な政策を次々と打ち出し、先に公表した2018年度(17年10月~18年9月)予算の概要では、科学研究向け予算が軒並み大幅に削減された。科学界は壊滅的な打撃を受けるとして、反発を強めている。

 予算案の決定権を握る米議会がこの科学研究向け予算を大幅削減した予算案をこのまま通すとは考えられないが、万が一これが通った場合は日本を含め、国内外の多くの科学者たちが直ちに研究機会を失うリスクもあり、危機感が広がっている。

 地球温暖化対策も政策転換を余儀なくされ、国際的な枠組みである「パリ協定」が形骸化して、気候変動をめぐる国際的な流れを停滞させることは避けられない。中長期的には、米国の「強さ」の源泉である科学技術開発の推進力を委縮、劣化させる一方、米国が先導してきた世界の先端的な科学技術の進歩、発展にも致命的な影響が及んで、文明の進化、発展にも水を差しかねず、歴史的にも禍根を残す世紀の愚策に陥りかねない。

前代未聞の独裁的な箝口令
科学者たちの絶望的な危惧

 それだけではない。科学者たちの論文の発表や研究の成果に政治的な検閲が介入し、トランプ政権の政策に反する内容は公表を認めないといった、前代未聞の独裁的な箝口令を導入するなど、「真理の探究や学問の自由」が脅かされる事態を迎えている。自らにとって「不都合な真実」を隠し、切り捨てて、あたかもなかったかのように客観的な事実を歪曲し、捏造することも厭わないトランプ政権そのものに、科学者たちの絶望的な危惧が広がっている。