宇宙空間で核爆発させたのは
クリストフィロス効果を研究するため
アニー・ジェイコブセン (著)、加藤万里子 (訳)
太田出版
592ページ
3700円(税別)
1962年10月16日、ソ連が密かに核ミサイルをキューバに設置していることを発見したアメリカ大統領ケネディは、ソ連首相フルシチョフにミサイルの撤去を迫り、拒否された。この日からフルシチョフがミサイル撤去の決断を下すまでの13日間ほどに、人類が核兵器による全面戦争に近づいたことはない。キューバ危機で核ミサイルが攻撃に用いられることはなかったが、実はこの危機の最中に核ミサイルは4発も爆発していた。その事実が世間に知られることがなかったのは、この爆発が宇宙空間で行われていたからだ。
4発中2発はアメリカによって、残りの2発はソ連によって行われた実験だった。わざわざ宇宙空間で核爆発させたのは、クリストフィロス効果を研究するため。1957年にソ連が打ち上げた人工衛星によるスプートニク・ショック以来、アメリカはソ連のICBM(大陸間弾道ミサイル)から自国を守る方法を探し続けていた。そして、無名の科学者であるニコラス・クリストフィロスが考案した「大気圏のすぐ上の地球の磁場にある高エネルギー電子をとらえ、それによって生成されるアストロドームのような防御シールド」を作るというアイディアに行き着いた。クリストフィロス効果とは、電離層での数千発にも及ぶ核兵器の炸裂によるベータ粒子を地球の磁場に注入し、そこを通過しようとする物体に障害を引き起こすというものだった。
宇宙空間での核爆発というあまりに危険で、莫大な費用を要するクリストフィロス効果はSFの世界のアイディアのようにも思える。しかし、このアイディアは高名な科学者によって真剣に議論され、アイゼンハワー大統領のゴーサインを得た後、1958年に初めての実験が行われた。最初の実験では予想よりも弱く、短時間の効果しか確認されなかったものの、キューバ危機にいたるまでその検証は続けられていたのである。そして、この実験を主導していたのが本書『ペンタゴンの頭脳――世界を動かす軍事科学機関DARPA』の主役である国防総省内のARPA(高等研究計画局)なのだ。