古から今も変わらず慣習、習慣を受け継ぎながら、流々とした時を刻む町京都祇園。時代を超えて私たち日本人の心を惹きつける「粋の文化」を祇園に入り浸る著者が「かっこいいおとな」になるために紡ぐエッセイ。第6回は、花街の夏の贈り物についてお届けいたします。(作家 徳力龍之介)

祇園ならではの風情を演出する花街のお中元

撮影/福森クニヒロ

 夏が近づくと舞妓さん、芸妓さん、地方(じかた)さんからささやかな贈り物が届きます。ご贔屓筋やお茶屋さん、料理屋さん呑み屋さんと普段からお世話になっているところに、自分の名前が入った団扇を配り歩くのです。

 団扇は毎年新調し、誂えたものを届けます。舞妓さんは自分の所属する置屋さんの家紋を入れ、反対の面には置屋さんの名前を入れて自分の名前を入れます。芸妓さんになると、自前の家紋と本名の苗字を入れて名前を入れたものを誂えます。地方さんも同様に新しいものを誂えます。

 一般的な夏のお中元のような習わしですが、白地に朱色の縁取りでしつらえた竹の団扇は季節感と相まって、祇園ならではの風情を演出してくれます。いつ頃からの風習か、というのは誰にもわからないようで、花街では毎年のお決まりコトになっています。