企業が収集可能なデータの種類と量は爆発的に増殖している。しかし、残念ながらその“宝の山”(ビッグデータ)をビジネスの再構築や経営判断に十分活かし切れていないのが日本企業の現状だ。ボトルネックの1つとなっているのが、膨大なデータを整理し、分析する「データサイエンティスト」の不足である。その人材には従来の統計学的知識や、ITのスペシャリティだけではカバーできない高度で幅広い能力が求められる。しかし、日本の教育現場、人材を受け入れる企業側には、まだ十分な体制が整っていない。現状打開のカギは何か、専門家に聞いた。

データ分析のトレーニングを受けた大学卒業生の数は
日米で7倍の開きがある

 あなたは「データサイエンティスト」という専門職についてご存じだろうか? どのようなスペシャリティを持ち、どんな分野で活躍しているのか? ビジネスにおけるデータ活用への関心は日々高まりを見せているが、残念ながら日本では、データサイエンティストを専門職として活用している企業は多くないのが実情だ。

神津友武
有限責任監査法人トーマツ
デロイトアナリティクス ディレクター
Photo:DIAMOND IT&Business

 昨今、データサイエンスは、国や地方の行政や企業経営、社会貢献活動などに欠かせない、極めて重要な専門領域の1つであると考えられている。日々生成、収集される膨大なビッグデータを整理し、その精緻な分析によってデータから価値を創造する科学だからである。アカデミックな従来の統計学に比べると極めて実学に近く、国や地方の政策づくり、企業によるビジネスの再構築、意思決定などに必要な洞察をもたらしてくれる。そうした有用性が十分に認識されている米国では、データ収集、分析のための高度な知識とスキルを持ったデータサイエンティストが新たな"プロフェッショナル"(専門職)として注目され、数多くの人材が行政やビジネス、社会貢献活動などの最前線で活躍しているという。

「米国には、ノースカロライナ州立大学やオクラホマ州立大学などのように、データサイエンティスト養成のための専門コースを設けている大学や大学院が数多く存在します。充実した人材育成体制がデータサイエンスの発展をもたらし、米国や米国企業の競争力をさらに押し上げようとしているのです」

 そう語るのは、日本企業向けにデータサイエンスに関するコンサルティングを行い、データサイエンティストの育成支援にも力を入れている有限責任監査法人トーマツ デロイトアナリティクスの神津友武ディレクターである。

 一方、日本のデータサイエンティストの育成状況はどうかと言えば、 残念ながら米国に比べて大きく立ち遅れているのが実情だ。その結果は、当然ながら輩出される人材の数の差にも表れている。やや古いデータだが、マッキンゼー・グローバル・インスティテュートの調査によれば、2008年にデータ分析のトレーニングを受けた大学卒業生の数は、米国が約2万5000人に対し日本は約3400人。その差は約7倍にも達している。